食べておいしいお米を追求し、日本一に輝いた「会津猪苗代カンダファーム」神田 忍さん/福島県猪苗代町

美しい水田が広がる福島県猪苗代町(いなわしろまち)で日本一の米作りを目指して邁進する「会津猪苗代カンダファーム」の神田忍さん。試行錯誤を重ね、2024年に「第26回米・食味分析鑑定コンクール国際大会」で最高賞となる「国際総合部門・金賞」を受賞した。日本一の夢を叶えた神田さんの米作りとは。

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お米にとっての最後の楽園に

会津猪苗代カンダファーム(以下、カンダファーム)のある猪苗代町は、会津磐梯山(ばんだいさん)と猪苗代湖に囲まれた全国有数の景勝地。標高500m以上にも関わらず、広大な水田が一面に広がっており、磐梯山系の豊富な雪解け水に恵まれ、有機質土壌の田んぼも点在する。スキー場のある豪雪地帯としても知られ、統計開始以来、一度も猛暑日を観測していなかったそう。「寒暖差が激しいこの地域は、温暖化が進む今、お米にとって“最後の楽園”かもしれません」と神田さんに笑顔があふれる。

営業職から農家へ転身し、卸売りから直販へ

大学卒業後、サラリーマンとしてキャリアを築いてきた神田さんの転機となったのが、家業を継いでいたお兄さんの急逝だった。兄の遺志を継ぎ、農家と民宿を営むご両親を支えるために2011年に30歳で就農したが、1か月後に東日本大震災が発生。農業にも甚大な被害をもたらし、風評被害の影響で米の価格が急落した。神田さんは現状を打破する方法を模索するうちに、営業職の経験を生かして直販への切り替えを決めた。「JAなど卸先への価格は大幅に下がって売り上げが激減していたので、米は自分で売っていく時代になると思ったのが始まりです。しかし、当初は売り上げが少なく、消費者に選ばれるためには品質の良さとブランドを作り上げていく必要があると実感しました」と振り返る。そこで目標としたのが、10年後の40歳までに米のコンクールで受賞すること。ここから日本一を目指す挑戦が始まった。

ちなみに神田さんが金賞を受賞した「米・食味分析鑑定コンクール国際大会」は、米・食味鑑定士協会が主催している“お米のコンクール”のこと。お米の検査といえば「等級検査」のみが主流であった2000年当時、お米の食味にこだわり、衰退しつつあった「地方・農業・稲作の復興」を後押しするべく、コンクールがスタート。第1回大会は400に満たない出品数での始まりだったが、今や5,000もの総出品があり、数多くの自治体との共催によって、世界最大規模のお米のコンクールへと成長した。また、第10回より国際大会となり、コンクール受賞者のお米は、国内はもとより海外でも高い評価を得ている。

毎年10パターン以上の試験栽培でデータを蓄積

独学による研究を進めるために、まずは毎年10パターンの試験栽培を実施。品種や栽培方法、与える肥料の量や稲を刈るタイミングなどを変えながら検証し、品質の改善に取り組んでいった。周囲からは「神田さんの田んぼはまだ穂が出ていないけれど大丈夫なの?」と言われるなど反応も様々だったと言う。試験栽培した米は食味計の測定や実食により最良ロットを選定し、次年度はさらに10パターン以上の試験栽培に挑戦。この独自の試験栽培を継続してデータを蓄積し、納得できる栽培方法を確立していった。

出会いに感謝。自分で切り開いて夢を叶えていく

米作りを通して出会ってきた人々も神田さんに大きな影響と幸運を与えてくれた。「日本一の米の産地・南魚沼には米作りの師匠がいます。コンクールでの出会いを機に毎年訪れ、肥料や田植え、刈り取り時期など細部まで教えていただきました。また、日本一を獲得した農家への研修視察や全国の米農家さんとの交流もずっと続けています」と楽しそうに話してくれた。営業マンとして培ってきたコミュニケーション力を発揮し、積極的に出かけて良い米づくりを学んで吸収できることも神田さんの大きな強みだ。

食卓を彩るプレミアム米「ゆうだい21」

10パターン以上の試験栽培を継続する中で大切に育ててきたのが、プレミアム米「ゆうだい21」。宇都宮大学の開発プロジェクトの中から生まれた「奇跡の米」と呼ばれる品種で、粘り気があり、強いうまみと甘みが特徴。コンクールで日本一を取った米農家たちも認める品種に取り組み、神田さんは日本一を目指してきた。「標高が高く低温になる猪苗代では、冷害に強い「ひとめぼれ」をメインに栽培していましたが、試行錯誤を重ねる中で土地に合った肥料設計や栽培方法に成功。「ゆうだい21」は私が重視している食感や粒感、肌触り、お米としての存在感があります」。

カンダファームの米の収穫は、もち米から始まり、ひとめぼれ、ゆうだい21へ続く。直販は始めた当初は売り上げは少なく厳しい状況が続いたが、購入した方の評判は高く、リピートも増加。さらに、受賞を機に広く認知されるようになり、売り上げも目標を達成するようになっていった。炊きたてはもちろん、時間がたっても変わらないおいしさが評判を呼び、毎年完売する人気ぶりだ。

農業はクリエイティブな仕事。目標は、5年連続日本一!

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カンダファームの「ゆうだい21」は、2024年に開催された日本最多の出品数を誇る「第26回米・食味分析鑑定コンクール国際大会」で最高賞となる「国際総合部門・金賞」を受賞。神田さんが44歳の時だった。ついに、日本一を叶えた神田さんの次なる目標は、5年連続の日本一だ。「受賞して、そこで立ち止まったら進歩がないと思っています。自分が満足できるかどうかが大切なので、これからも毎年挑戦して5年連続受賞を目指します。なぜ5年連続なのかというと、2026年から3年連続でこの大会が福島県で開催されるから。そのためにも、常に挑戦者でいたいんです。農業は地味な仕事のように思えますが、明確な目標があると非常にクリエイティブで、こんなにおもしろい仕事はないですね」と大きなやりがいを感じている。

精米機の厳しい設定も、おいしさの秘密

現在は30パターンもの試験栽培を行い、精米にも大きなこだわりを持つ神田さん。本来は色彩選別機を何度も通せばきれいになるが、米を傷つけたくないために1回だけ通して厳しいジャッジをしていると言う。機械のラインを厳しく設定することで、通常は透明感のある米粒の中で乳白色に濁った「白濁」や粒の腹部が白く濁った「腹白」などを取り除けるため、雑味のないおいしいお米が出来上がる。白濁や腹白などの濁った粒は食べても味に問題はないが、生育中に天候の影響(高温や日照不足など)で発生するため、米のでんぷんが不十分とされており、ご飯がやわらかくなる原因となる。

「コンクールに出品するために厳しく設定していたものを通常の販売用にも対応したことで、理想的なおいしいお米になりました」と明言する。

「日本一を目指す米」と「究極の普段食」を2本柱に

有機栽培による「ゆうだい21」の可能性にも挑戦する中で大切なことは草対策だと言う。収穫量を増やし、病害虫や雑草を防ぐために化学肥料や農薬を使用する「慣行栽培」より植える苗の量を減らして、光合成を促進するため、雑草対策にも余念がない。「農業は天職なので苦労とは思っていません。営業マンの時より輝いていると自分で思っており、子どもたちにも誇れる仕事です」と愛する家族とともに田んぼを見つめる神田さん。

5代目を継いで以来、2本柱で栽培に取り組んでおり、そのひとつは「日本一を目指す米」。もう1つは手頃な価格で食べ盛りの子どもたちもお腹いっぱいになれる「究極の普段食」だ。今後も日本一を目指しながら、毎日の食卓にも幸せを届けてくれるに違いない。

ACCESS

会津猪苗代カンダファーム
福島県耶麻郡猪苗代町横マクリ570-1
TEL 0242-62-3402
URL https://kandafarm.net
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