大山ブロッコリーとともに地域の伝統と未来をつなぐ。andAgriの林原正之さん/鳥取県大山町

甘みが強く、えぐみの少ない『大山(だいせん)ブロッコリー』。西日本での作付面積1位を誇る、大山町自慢のブランドだ。株式会社andAgri(アンドアグリ)の代表取締役である林原正之さんは、ブランド確立に貢献してきた先代の跡を継いで、大山ブロッコリーをより広めていくために奔走している。

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鳥取が誇る名峰「大山」が育む豊かな土壌

鳥取県大山町は、北は日本海、南には中国地方最高峰の大山がそびえる自然豊かな町。海から大山の麓までは車で約20分の距離にあり、海と山の恵みをどちらも受けられる環境だ。標高0mの沿岸部から標高約600mの準高冷地まで畑が広がり、山の麓にあることから、日中と夜間の寒暖差が大きいエリアでもある。また、大山の火山灰からできた黒ボク土は、有機物質を豊富に含んでいる上、水はけがよく、ブロッコリーの栽培に最適だ。

大山ブロッコリーのあゆみ

大山町でブロッコリーの栽培が始まったのは1970年頃。それまでは米の収穫量を増やすため稲作が中心だったが、米が余るようになり、他の作物を育てなければならなくなった。そのとき目を付けたのがブロッコリー。大山の黒ボク土、昼夜の寒暖差、そして豊かな水。ブロッコリー栽培はピタリとハマった。

しかし、効率化を重視して一種類の作物を同じ場所で育てるようになったことから、次第に連作障害(同じ作物を作り続けることで土壌の栄養素が偏り、栽培がうまくいかなくなること)が発生し、対応に苦戦。実は、それまで行ってきた水田での稲作では、水がさまざまな養分を持っているため、土の中の栄養素の偏りが少なく、連作障害が起こらなかったのだ。

さらに、輸入作物の増加の影響も受け、栽培は徐々に低迷。
改革のために動いたのは、正之さんの父、博寿(ひろし)さんだった。

品質管理でブランドを立て直す

輸入品との差別化・大山ならではの特徴をつくるため、取り掛かったのは出荷方法の改善。ブロッコリーは収穫した瞬間から鮮度が落ちていき、葉がしおれてしまうため、輸入品に葉がついているものはない。それに対し、新鮮な状態であることを示すため、全国ではじめて葉がついた状態での出荷を開始。また、収穫したてのブロッコリーを鮮度保存フィルムに包んでから真空予冷するなど、鮮度を保ったまま出荷できるよう工夫した。さらに、これまでの栽培経験を生かして、就農者への指導にも対応。大山エリアの生産者が同じ品質で出荷できるような体制を整えていった。

その努力が実り2012年に「地域団体商標」を取得、2018年には国が実施する「地理的表示制度」、通称GIに『大山ブロッコリー®』として登録される。その特徴は、甘みが強くえぐみが少ないこと、徹底した品質管理を行っていること、町内にあるさまざまな標高の畑を生かすことでほぼ1年中栽培でき、市場への安定供給が可能なことだ。市町村別では西日本1位の作付面積を誇り、大山ブロッコリーのブランドが浸透していった。

伝統や生産者の想いをつなぐ「andAgri」を設立

GI取得に大きく貢献した博寿さんの跡を継いだのが、息子の正之さん。ブロッコリー農家になることを見据え、大学卒業後には地元の青果市場で物流や営業の経験を積み、29歳のときに就農した。さらに、その2年後、2019年には株式会社andAgri(アンドアグリ)を設立。もともと7ヘクタールだった作付面積を50ヘクタール以上にまで増やし、より安定した栽培を実現した。
「”アンド=つなぐ”、”アグリ=農”の意味。この地域の伝統や生産者の歴史があるからこそ、自分たちの今がある。それらを忘れず、未来へつないでいこうという想いを込めました」。

自然と共生する大山ブロッコリー栽培

ブロッコリーにはさまざまな品種があり、3カ月で収穫できる早生(わせ)品種から、半年以上かかる晩生(おくて)品種まで多様。andAgriでは、真夏の8~9月を除いてほぼ通年で収穫できるよう、10~15品種を取り揃えている。中早生の「恵麟(けいりん)」は、つぼみがしっかりと締まり歯ごたえがよく、正之さんおすすめの品種。また、化学肥料を通常栽培の70%削減し、えぐみや苦みを抑えた「きらきらみどり」や、糖度が12度程度あり、フルーツのような甘さが特徴の「スイートブロッコリー」など、食感や甘みの違う品種にも挑戦中だ。

ブロッコリーは短期間で収穫できるため、他の野菜に比べ回しやすいという利点もあるが、ビニールハウスを使用しない露地栽培だからこそ難しい面も多い。

「日本海から吹き付ける風が強く、沿岸の畑では塩害の影響も考えなければならない。また、台風や降雪の時期もあるため、どの畑に・いつ・どの品種を植えるかの計画性が重要です。それぞれのブロッコリーの生育をよく見て、追肥をしたり土寄せしたりと、日々の観察も欠かせません」。

収穫に隠された苦労と美味しさの秘訣

実は、私たちが普段食べているのは、ブロッコリーの花が咲く前のつぼみの集合体。出荷に適した大きさよりも成長してしまうと、菜の花のような黄色の花が開花してしまう。初夏採りの場合の収穫適期は2~3日のため、期間内に収穫を終えなければならない。

しかし、鮮度をキープして出荷するためには、夜10時から朝9時を基本とした、気温の低い時間帯に収穫を行う必要がある。また、ひとつの畑に同じ品種を同時に植えたとしても、生育には個体差があり、一気に刈り取ることができない。出荷できる大きさになっているか、ひとつひとつの成長度合いを毎日見て回り、手作業で収穫する必要があるため、人員確保も大変だ。

「就農希望者も来てくれるのですが、収穫を体験してみて『想像していたよりも大変』と言われることも多いです。たしかに、肉体的に手軽にできることではありません。それでも、自分が思い描いていたブロッコリーができたときにはやりがいも大きい。だからこそ、チームで栽培状況を相談したり、地域の生産者からのノウハウを共有したりと、若い方が安心して働ける環境づくりにも力を入れています」。

美味しくブロッコリーを食べるには

ビタミンA・Cや食物繊維、カリウムなどが含まれ、栄養価も高いブロッコリー。スーパーで購入する際は、上のブロッコリーのつぼみの写真のように、つぼみがしっかりと締まっていて硬いものを選ぶのがよいという。茎の切り口が白いものは鮮度が落ちているため、忘れずにチェックしよう。

購入後は一口サイズにカットした状態で冷凍すると、いつでも新鮮な状態で食べられる。

「春に出回るブロッコリーは、秋に種を蒔いたもの。山陰地方の厳しい冬を越して甘さが増しているので、ぜひ食べ比べてみて」と教えてくれた。

茹でるだけじゃない、ブロッコリーレシピ

茹でてマヨネーズを付けて食べることが多いブロッコリーだが、農家直伝のレシピも教えてもらった。まずは「小エビと塩昆布とブロッコリーの和え物」。フライパンで、小エビを香ばしくなるまで乾煎り。その後、茹でたブロッコリーを加え、ごま油・塩昆布と和える。おかずやおつまみにも最適だ。

また、硬めに茹でたブロッコリーをホットケーキミックスにくぐらせて揚げる「ブロッコリーのフリッター」。そのまま甘さを楽しんでもよいし、ケチャップやマヨ醤油との相性も抜群。おやつにもなるため、子どもにも人気のレシピだという。

さらに、生のままオーブンで焼けば、栄養価や甘みが逃げず、濃厚な味わいも楽しめる。

「実はブロッコリーにはたくさんの品種があり、硬さや食感、茹で時間なども変わってきます。でも、現状は『ブロッコリー』としてしか認知されていなくて、品種や収穫時期による味わいの違いがわかりにくい。今後はそこにもう一歩踏み込んだ形で、ブロッコリーの魅力を伝えていけたら」と正之さん。生産者からの情報発信にも力を入れていく方針だ。

限界を設けずチャレンジしていきたい

自然相手のブロッコリー栽培は「こうすれば絶対にうまくいく」という基準はない。同じ時期に同じ条件下で育てても、出来が大きく変わることも。だからこそ、思い描いていた美味しいブロッコリーが育ったときは感動する。そして、なぜそれぞれの出来が違うのか、「来年はこうしよう」と仲間と試行錯誤しながら、自分たちで改善していけるところがおもしろい。

「大山町では生産者の高齢化も進んでいて、離農者や空き農地が増えている。その受け皿として、農地を荒らさないように、地域の支えにもなっていきたい。また、『ブロッコリー農家としてどこまでできるのか』は、自分の中で目標や限界を決めずに挑戦していきたいんです。そして、消費者の皆さんにとって“ただのブロッコリー”ではなく、”大山ブロッコリーだからこそ価値がある“と思ってもらえるよう、発信も大切にしていきたいですね」。

ACCESS

株式会社 andAgri
鳥取県西伯郡大山町岡592番地
URL https://andagri.co.jp/
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