行列のできる日本酒「飛露喜」
取材当日のこと。廣木酒造本店に向かうと、近所の酒販店に何やら長蛇の列ができている。何の列だろうと驚いていると、廣木酒造本店の酒を買うために並んでいる人たちだというのだ。酒販店に行列ができるというのは、はじめてみる光景かもしれない。行列の人たちが待っているのは「飛露喜 特別純米 生詰」という酒。月に一度、販売をするときには、いつも長蛇の列ができるという。
廣木酒造本店は会津坂下町と新潟をつなぐ越後街道沿いにあり、街道を通る人々に酒を振舞ったのが蔵の始まりだ。代々「泉川」という酒を造り、地酒として親しまれてきた。
地域に根ざした日本酒で勝負
そして全国的にも人気があるのが先ほどの「飛露喜」という酒。定番酒、限定酒ともに数種類を手がけるが、共通しているのはスッキリと綺麗な飲み口と、まろやかで品のある深い味わいだ。
「酒を造るからには、メジャーリーグ、セリエAのような舞台で戦いたい」と話してくれたのは9代目の廣木健司さん。そのために酒米は山田錦も使用する。しかし、山田錦は麹米として使用し、掛米として地元の五百万石を多く使っている。それはやはり福島の酒として勝負したいからだという。「ここの風土を生かした酒を作ることを考えるとやはり地元のお米、五百万石を使うのがいい。サッカーも地元のチームっていうのがありますもんね」
徹底した管理下での酒造り
廣木酒造本店の酒造りは、仕込みのタンクも冷却のできる設備を整え、徹底して温度管理された蔵の中で仕込む。同じ材料を同じように使うとしても、温度変化によって旨みと雑味のバランスが異なるために、細かな基準を設けているのだ。
ほっとするお酒を作りたい
「飛露喜」は健司さんが、特別な酒を造りたいと思い、挑戦して生まれた酒。「喜びの露が飛ぶ。そういうイメージでした。ただ、はじめのうちは母がラベルを手書きしていたので、大変でした」そう言って笑う。
「それでは、これからどんなお酒を造りですか?」という中田の質問に、「ほっとするお酒」と答えてくれた。
「実は、親父が屋台で飲んでいたような燗酒も好きなんです。サラリーマンが仕事で失敗したとき。家に帰ってバッチリと完璧なお酒を飲んだら“みんな立派だなぁ…”と思うかもしれない。でもうちのお酒を飲んで、“なんだ普通の酒だな。世の中こんなもんでいいんだ”と思ってくれたらいい。そういうほっとするお酒も作りたいです」
それは徹底した温度管理で生まれる洗練された酒とは、また趣の異なる“おおらかな酒”。どんな思いを込めて造るかによって日本酒が大きく変化することを、これまでの旅でも度々目にしてきた。これから生まれるお酒にも、注目していきたい。