能登四天王 杜氏 農口尚彦
鹿野酒造の杜氏(とうじ)は、「能登四天王」と称される杜氏のひとり、農口尚彦さん。親子3代にわたる杜氏一家に生まれ、昭和38年から杜氏として酒造りに没頭してきた。
全国新酒鑑評会において、連続12回、通算26回も金賞を受賞するなど、数々の栄誉を手にし、名実ともに最高の杜氏としてその名を知られている。
酒造りに尽力する多くの蔵人に影響を与えたことから、2006年には「現代の名工」に認定、厚生労働大臣から表彰を受けた。
その名人が得意としているのが山廃仕込み。鹿野酒造の主力銘柄「常きげん」の濃厚な飲み口と鋭いキレは、名人の山廃によって生まれる。
山廃仕込みを見極める
酒造りの際、酵母の働きを健全にするためには乳酸が不可欠なのだが、そのとき山廃では自然界の乳酸菌を使う。つまり、乳酸を人の手で加えるのではなく、長い年月をかけて蔵に住み着いた乳酸菌に働いてもらうのだ。そうすることによって、鹿野酒蔵だけの芳醇な香りとしっかりとした独自の味を出すことができる。
最近では建物や環境の変化によって、山廃仕込みに必要な家付きの乳酸菌の発生に時間がかかるのだと農口さんは話してくださった。もちろん、そうした変化を見極めるのは、杜氏の目と勘によるところが大きい。山廃仕込みは、杜氏の腕がより直接的に味としてあらわれるといわれている。
鹿野酒造のこだわり
秋から、冬、春先までは蔵にこもって酒造りをし、夏の間はご自宅に帰るという生活をもう約60年も続けている農口さん。
「仕事があるから蔵に足を運ぶと、体がしゃきっとするんです。いまでも健康でいられるのは、働き続けてきたからだと思います。」元気に、働き続けることが大事だと話してくださった。
こだわりの日本酒「常きげん」
「常きげん」は、鹿野酒造の多くのこだわりが作り出した酒でもある。
古くから八日市町に伝わる「白水の井戸」を復活させ、この地に根付いたまろやかな軟水を仕込み水として使用する。さらに、理想的なお米を求めて、酒米「山田錦」も自家栽培しているのだ。
杜氏 農口さんが培った経験と、鹿野酒造の持つこだわりが造り出す「常きげん」。ほんの束の間、「常きげん」を支える人々の夏の姿を垣間見る訪問であった。