栃木生まれの「ゆうだい21」で米づくりに向き合う「阿久津農園」阿久津政英さん/栃木県大田原市

栃木県大田原市は米の生産が県内1位である。その中で「米・食味分析鑑定コンクール」での受賞歴を誇り、他にも「東洋ライス世界最高米2022」に認定されるなど、数々の評価を受ける阿久津農園・阿久津政英さん。栃木県の米があまり有名でない中、阿久津さんのつくる米はなぜ評価されるのだろうか。

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米の生産に適した土地・大田原市

大田原市は「那須野が原」といわれる栃木県北部の那須地域にある広大な扇状地に位置する。日本三大疏水のひとつ「那須疏水」が流れる土地だ。那須連山から流れる水は、ミネラルがたっぷり含まれた伏流水。豊かな水源があるから、米作りに適している。

もちろん、水だけではない。肥沃な土壌があり、夏には十分な温度と日照で稲の生育を促進し、冬の寒さは害虫の発生を抑えるなどの気候条件や、水の管理がしやすくて大規模な水田を展開しやすい平坦な地形など好条件が重なり米どころになっている。

大田原市の語源の由来は「大俵(おおたわら)」といわれており、昔から米の生産が盛んな地域なのである。

米の収穫量ランキング上位なのに、知名度が低い栃木県産米

栃木県の米の生産は、2021年に農林水産省が発表した「水陸稲の時期別作柄及び収穫量(全国農業地域別・都道府県別)」データによると、収穫量のランキングは全国8位である。しかし、栃木産米はあまり有名ではない。それは、首都圏に近いという立地を活かして業務用米が主流になっているからだ。

業務用米とは、スーパーなどで販売される家庭用のお米ではなく、外食チェーンやコンビニのお弁当、給食などで使われるお米のこと。私たちが口にする機会は多いものの、食べる時に産地や銘柄を目にすることが少ないため、「栃木の米」としての認知度が広がりにくい側面がある。

実際、2017年の農林水産省のデータでは業務用向けの販売割合が高い上位10県で1位を記録し、7割近い数字が業務用向けになっている。

知名度はないけれど、美味しい米ができる土地

そんな環境で米作りをおこなう阿久津さん。実家が農家だったこともあり、大学を卒業してから農業にたずさわるようになり20年ほど経つという。今では共に米作りをおこなう父の跡を継いで5代目となった。

転機が訪れたのは約8年前にはじめて出品した「米・食味分析鑑定コンクール」だ。

阿久津さんは食味コンクールの存在は知っていたものの、それまで出品には至っていなかった。しかし、「この地域のお米は美味しい」、何より毎日食べている「自分のうちのお米はもっと美味しい!」という確かな自信はあったという。そこで、誰でも出品できることを知り、「出したら賞が取れるのでは?」と考え、楽な気持ちで出品した、と当時を振り返る。

しかし、初出品となる2016年「第18回米・食味分析鑑定コンクール」において、いきなり「都道府県代表 お米選手権」部門で特別優秀賞を受賞。自身の作るコシヒカリにこだわりはあったし、自信もあった。「なんだ、やっぱり出品すれば受賞できるじゃないか」と思った一方で、「コシヒカリ」での上位入賞の限界も感じたという。

というのも、コシヒカリは国内で最も作られている品種ゆえに、コンクールでも出品数が圧倒的に多く、全国の生産者がこぞって出品する。「コシヒカリでは、これより上を目指すのは厳しい」と限界を感じていた時、自分なりに「何かないか?」と探しはじめて出会ったのが「ゆうだい21」だった。

宇都宮大学で生まれた品種「ゆうだい21」との出会い

ちょうどその頃「米・食味分析鑑定コンクール」で、ゆうだい21という品種が国際総合部門で金賞を受賞し始めた。

ゆうだい21は地元栃木県にある宇都宮大学の農学部附属農場で偶然発見した稲穂の株を元に、20年もの年月をかけて開発し2010年に品種登録された、国立大学生まれの米である。稲丈が伸びて倒伏しやすく、肥料や水分管理が繊細で技術を要するため、栽培難易度は高いとされているが、中山間地など手間をかけられる環境で真価を発揮し、コシヒカリ並かそれ以上の収量・品質を目指せる品種だ。さらにゆうだい21は、甘みが強く、米そのものの味がしっかりしているため、一般消費者にも受け入れられるとゆうだい21の可能性を直感し、翌年(2017年)からゆうだい21をつくることを決めたのだ。

ゆうだい21をつくる前からの取り組み

ゆうだい21をつくる前から、阿久津さんは「農薬を使わずお米をつくりたい」という思いを強め、農薬不使用栽培に取り組んでいた。きっかけは、家族のアレルギーを改善したいという考えからだったそう。

草取りから大変な農薬不使用栽培は、先代でもある父の理解を得るのに時間がかかったが、小さい面積から始めて、少しずつ認めてもらえるようになったという。

ゆうだい21でも農薬不使用栽培を取り入れる

そんな経緯があることから、ゆうだい21は農薬不使用で、3反歩(テニスコート約12面分)の栽培から始めた。

さらに少しずつ生産量を増やし、つくり始めて4年目には主食用の米を約4ヘクタールつくっているなかでゆうだい21を半分以上栽培したという。

なぜ阿久津さんがつくる「ゆうだい21」は美味しいのか

ゆうだい21の特徴は、粒が大きくてツヤがあり見た目がキレイという印象。食べてみるとうま味が強くてバランスが良く、噛むほどに甘みを感じられると評価されている。

実際に食した方が「美味しい」と言って年々需要が増えており、阿久津農園でも栽培面積を毎年拡大させているという。

評価される品種でも「阿久津農園」が選ばれた理由

先にも述べたが、阿久津農園がある大田原市は米をつくるのに適した土地である。米は夜の気温が下がると美味しさの養分を吸い上げて穂に運ぶといわれている。

阿久津農園は山に囲まれており、標高は200m。日中と夜の温度差が大きく、味に影響を与えていると考えられる。また、近くを流れる蛇尾川(さびがわ)から田んぼに水を引き込むが、この蛇尾川は阿久津農園から上流4kmほどは地面の下を流れている川になる。そのため水温が低い状態で田んぼに引き込むことができ、水温の低さで夜の温度が下がりやすく、味に影響を与えているのだそう。

さらに阿久津農園の田んぼは、河川敷に位置する場所にありミネラルが豊富で肥沃(ひよく)な土壌というのが、通常でも美味しいゆうだい21をさらに美味しくする理由だろう。

農薬不使用栽培がゆうだい21のポテンシャルを引き上げた

しかし、それだけではない。阿久津さんが取り組んできた農薬不使用栽培も理由のひとつだろう。

農薬不使用栽培で一番難しいのは雑草の除草作業だという。

その除草を可能にするために、植え付ける株と株の間を広げて、縦横から除草できるようにしているそう。通常苗は、1坪当たり50株植えるところ、農薬不使用のゆうだい21は「37株植え」という植え方にして4割ほど株を減らしている。

疎植栽培で株間が広くなると穂がV字に広がる空間ができ、株元の葉まで太陽の光がしっかりとあたる。また、栄養が行き渡るため大きな穂に育ちやすい。

さらに、株間の風通しが良くなり「いもち病」や「紋枯病」などの病気が発生しにくく、丈夫な稲を作ることができるという。

もちろん除草剤は使わないが、代わりに酵母菌や納豆菌、虫が嫌うレモングラスの抽出液など天然由来のものを散布して農薬不使用栽培を実現。それでも、時期によっては毎日田んぼに入って人の手で除草するという。

手間ひまかけてつくり上げた阿久津さんのゆうだい21は評判も高く、三越や伊勢丹、ザ・リッツ・カールトン日光などに提供。2025年にはニューヨークやロサンゼルスに店舗を構える日本産米専門店「the rice factory 」での取り扱いがはじまった。

特に海外は農薬不使用栽培の需要が高く、阿久津さんの取り組みが評価されている。

ゆうだい21の栽培1年目から高い評価を受ける

阿久津農園がつくるゆうだい21は、つくり始めた1年目から「米・食味分析鑑定コンクール」の都道府県部門で金賞を受賞。

次の年は最上位部門である国際総合部門で特別優秀賞、4年目になる「第23回米・食味分析鑑定コンクール」では国際総合部門で金賞を受賞。「米・食味分析鑑定コンクール」で金賞を受賞した玄米の中から、「金芽米」で有名な米の総合メーカーである東洋ライスが独自基準で「美味と生命力」を重視して厳選した最高級の玄米を指す、東洋ライス主催の「東洋ライス世界最高米2022」に認定され、全国でたった4名の生産者の1人になり、世界最高米の原料米に選ばれた。

ゆうだい21の伝道師

今後はゆうだい21の生みの親でもある宇都宮大学が市町村などと組み、ゆうだい21で町おこしをおこなう計画もあるそうだ。

阿久津さんは宇都宮大学から「ゆうだい21の伝道師」に任命され、地元の生産者に栽培方法などを伝えていく。

ゆうだい21をきっかけに栃木産の米が全国で認知され、そこから品種を限定することなくすべての栃木県産米が注目を浴びる、そんな日が訪れたら良い。

そのためにも、まずは「ほかの品種とはちがった美味しさを持つ米『ゆうだい21』を食べてもらいたい」と、阿久津さんは伝道師の看板と責任を背負い、今日も普及の活動を続けていく。

ACCESS

阿久津農園
栃木県大田原市宇田川985-4
TEL 090-2247-1665
URL https://hibi-hokori.jp/
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