「さんぴん茶」を知っていますか?琉球王国時代から今日まで日常的に飲まれている、沖縄県民にとって一番身近なお茶。今から遡ること500年ほど前に、沖縄でさんぴん茶が飲まれるようになった経緯とは。そして、沖縄ポッカコーポレーションの「元祖 沖縄ポッカ さんぴん茶」のおいしさの秘密は。
沖縄に根付くさんぴん茶文化
「さんぴん茶」と聞いて、なんのお茶かわかる人はどれくらいいるだろう。沖縄本島から離島まで、沖縄県民にとってなじみ深いお茶であるさんぴん茶。沖縄では、本土のように緑茶を日常的に飲む習慣はなく、もうずっと昔からさんぴん茶が各家庭で飲まれていた。
さんぴんとはずばり、ジャスミンのこと。熱帯や亜熱帯地域に育つ、白くて可憐な花を持つジャスミン。その花の香り豊かな、さっぱりとしてほのかに苦味の効いたお茶だ。実は知らない人も多いが、ジャスミン茶とさんぴん茶は飲み物としては同じもので、ただ名前が違うもの。
遡ること、1429年から約450年間、沖縄は琉球王国というひとつの国だった。さんぴん茶は、その時に交易の盛んだった中国から、琉球貿易という会社が琉球政府に持ち返ってきたことが、琉球でも広まったきっかけだといわれている。
中国では、古来から現在までジャスミンの栽培が広く行われ、国内で最も大量に生産されるお茶のひとつ。中国ではジャスミンは、茉莉花(マツリカ)ともいうけれど、香片(シャンピン)といわれることの方が多く、それが琉球に渡り「さんぴん」という発音で定着し、以後さんぴん茶として親しまれているのだとか。

沖縄ポッカコーポレーションは、お茶やコーヒー、ジュースなどの飲料やインスタント食品などの卸、販売をしている。最初にさんぴん茶を缶に詰めて販売した沖縄ポッカコーポレーションは、1989年に、名古屋に本社のあるポッカコーポレーション(現ポッカサッポロ フード&ビバレッジ)の沖縄営業所を設け、駐在員がひとり赴いたことからスタートした。
沖縄県でもポッカコーポレーションの製品を展開させるべく、沖縄本島北部に工場を構え、ポッカコーポレーションの主力商品のひとつである缶コーヒーなどの飲料が製造されることが決まっていた。けれど、何か沖縄らしい商品を作れないかと思案。「沖縄にはさんぴん茶があるじゃないか」と、さんぴん茶を缶に入れた商品として販売することを決めた。
当時県内では、中国から輸入されたさんぴん茶葉が広く市販され、それぞれの家庭や職場では、急須で淹れて飲まれていた。畑仕事に出かける時には、やかんいっぱいに沸かしたさんぴん茶を入れて持っていくという文化が根付いていた。
「売れないよ」という忠告の多かった缶入りさんぴん茶
それをわざわざ缶に入れて冷やして、お金を出してまで買ってくれるのか。地元の人たちは「そんなの買う人いない」「売れないよ」という反応がほとんどだった。日本初の缶入りさんぴん茶の誕生となったけれど、予想通り最初はまったく売れず、いろいろな場所で試飲を行って少しずつ浸透させていった。
那覇空港で客待ちをしているタクシーの運転手さんたちに無償で配って飲んでもらったりもしていたのだという。そういった地道な宣伝活動の甲斐あって、おいしさや手軽さが認められ、徐々に手に取る人が増えていった。そうして、本当に売れるようになったのは1993年の発売から5年経ってからだった。

1994年からはテレビCMの放送も開始し、人気が加速。缶に続き、ペットボトル入りのさんぴん茶も誕生した。
現在も、沖縄県内のスーパーではさんぴん茶葉が販売されているけれど、急須で淹れて飲んでいる家庭はかなり少なくなっていると考えられる。
中国伝統の工程で製造される特級の茶葉
さんぴん茶のベースには緑茶の茶葉を用いている。茶葉を発酵させる際に発酵を半ばで止め、そこに、ジャスミンの花で香りづけしたものがさんぴん茶だ。ウーロン茶などと同じで、半発酵茶に分類される。
中国の伝統的なさんぴん茶葉の製造方法で、半発酵させた緑茶葉に、フレッシュなジャスミンの花を混ぜ合わせて香りを移す。一度花を取りのぞいて、また新しい花を入れて香りをつける。この香りづけの回数が多いほど、香り高いさんぴん茶葉になる。

営業部販売課課長の大嵩利典さんが「しっかりとした渋みがポッカのさんぴん茶の鍵」というように、さんぴん茶のおいしさで大事なのが、ジャスミンの香りと少しの苦味。ただすっきりさっぱりしているだけではなく、苦味も兼ね備えることで深い味わいを作っている。

代表取締役社長(取材当時)の北村嘉洋さんは「安売りはせずに、長年に渡り県民に愛される味をしっかり守っていく」と語る。
現在、たくさんの会社から商品として出されているさんぴん茶だけれど、商標登録をしている会社はない。沖縄ポッカコーポレーションでも、さんぴん茶缶を発売した頃に登録をするかどうかの話があがったけれど、さんぴん茶も、緑茶やウーロン茶と同じ一般名詞だということであえてとらなかったのだそう。
その後に本土の会社がさんぴん茶の名称で申請し、商標登録された事例があったのだけれど、沖縄の歴史文化の尊厳を守ろうと、沖縄県と沖縄県茶業組合とで特許庁に異議申し立てをして、登録を取り消してもらったという出来事もあったのだそう。
これからも販売するのは沖縄県内のみ

沖縄ポッカコーポレーションでは、沖縄県外ではさんぴん茶を常設販売していないのだそう。そして、今後も県外進出する予定はないという潔さだ。
というのも、「さんぴん茶=沖縄」というイメージは全国的にある程度定着し、観光土産として手に取ってもらえる機会も増えてはきたが、購買比率を見ると圧倒的に沖縄県民が日常的に購入する割合が高い。
であれば、無理に販路を拡大するのではなく、沖縄県民に愛される味を追求していくことに注力したいという考え方。
加えて、小さな離島など、県内でもまだまだ届けられていない場所もあるので、売り場を増やし県内くまなく行き届かせることが目下の目標だそうだ。
沖縄で長きに渡り揺るぎない支持を受ける沖縄ポッカコーポレーションのさんぴん茶は、愛され続けるそのおいしさを守り、これからもずっと県民に親しまれるお茶であり続けるよう歩み続けていく。
流行り廃りが目まぐるしく、次々と新しい商品が生み出される現代に於いて、不易流行を貫くさんぴん茶。普遍的だからこそ、沖縄県民から受け入れられ、ごく当たり前のように生活の一部として溶け込んでいるのだろう。