シェフの視点でつくる新感覚のパン&ドーナツ。「AMAM DACOTAN」平子良太さん/福岡県福岡市

全国的なマリトッツォブームの先駆者となった福岡発のベーカリー「AMAM DACOTAN (アマムダコタン)」。都内にも出店し、さらに姉妹店の「DACOMECCA(ダコメッカ)」、アナザーブランドの「dacō?(ダコー?)」、生ドーナツ専門店「I’m donut?(アイムドーナツ?)」なども続々とオープン。創造性にあふれたパンを求めて、どの店舗も連日大行列!その人気の秘密とは。

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美味しいパンが並ぶ、“ワクワク”を生み出す店づくり

福岡市の繁華街から少し離れた六本松にある「アマムダコタン」。一歩足を踏み入れると、アンティーク家具を配したおしゃれな空間に、天井からはたくさんのドライフラワーが吊り下げられ、まるでファンタジーの世界に訪れたような気分に浸ってしまう。焼きたてのパンの香りに満ちた店内で、あれも欲しいこれも欲しいと迷うのは至福のひととき!オープンから6年経った今も、開店前から長蛇の列ができるという人気ぶりだ。

7畳の小さなパスタ店からスタート

「アマムダコタン」を手がける代表の平子良太さんは、実はもともとはパン職人ではなく10年ほどイタリアンで修業したシェフ。独立後、2012年に平尾にパスタ専門店「ヒラコンシェ」をオープンする。「僕一人で料理をつくる、7畳ほどの小さな店でした」と平子さんは懐かしむ。店の繁盛を受けて、警固の広い店舗へ移転し、1階にカフェレストラン、さらに2階にはドライフラワーのショップを開いた。

パンとドライフラワーとはちょっと意外な組み合わせだ。「もともとアンティークが好きだったことから、ドライフラワーの店もやってみたくて」と平子さん。カフェレストランでは、ドライフラワーにする前の生花を天井一面に吊るした美しいビジュアルでも評判となった。自ら壁や床を塗るなど内装にもこだわり、独自の世界をつくりあげた空間は、現在の店づくりの礎になっている。

「パンストック」仕込みの生地へのこだわり

もともとパンが好きだったという平子さん。「僕自身もそうなのですが、パンが好きとおっしゃる方って、パンそのものだけでなく、ワクワクしながらパンを選ぶという“パン屋に行くこと”自体が好きだと思うんです」。しかし今から6〜7年ほど前は、まだ品数が数点という店がほとんど。そのなかでパン屋への思いを唯一満たしてくれたのが、福岡市東区にあるベーカリー「パンストック」だったのだそう。豊富な品数だけでなく、生地の味わいにも惚れ込んだ平子さん。自分のレストランでは、すべて手づくりにこだわっていたなか、唯一仕入れていたパンも自分でつくりたいと思い始めるようになっていった。平子さんは心酔する「パンストック」で生地づくりを学び、2018年に六本松でベーカリー「アマムダコタン」をオープンする。

シェフの視点から、自由な発想でパンを開発

国産小麦を使い、約15時間かけて熟成した「パンストック」仕込みの生地は、バリッとした食感のなかにもっちり水分をたくわえているのが特徴だ。そこにあふれそうなほどに具材を詰めたサンドイッチや自家製のソーセージをのせたホットドックなど、ボリューミーでフォトジェニックな「アマムダコタン」のパンは、人々の心を鷲掴みにしていった。

「パン職人の方は生地そのものを味わってほしいという思いから、パンに入れる具材はシンプルなものになりがちなんです」と平子さん。「僕はベーカリーに行くと、料理人としてパンを食材としてとらえてしまい、まるで青果店や精肉店に行った気分になっちゃうんです(笑)」。こうしたらもっと美味しくなるのではないか?と常に考えながらパンを見ているうちに、やはり具材もパンも、どちから片方に力をいれるのではなく、両方が高め合うのがベストのバランスだと思い至り、今のボリュームたっぷりのスタイルになったのだそう。

平子さんが目指すのは、具材も美味しく生地も歯切れがよく、すべてが高め合う一体感のあるパン。具材の味わいを主軸に、その受け皿としてパンの食感に重きを置いたシェフ目線でつくるパンを求めて、わざわざ遠方から訪れる人も後を経たない。

SNSで「アマムダコタン」を全国的な人気店に押し上げた、イタリアの郷土菓子「マリトッツォ」など新商品が出るたびに注目を集めている。

ブリオッシュ生地を揚げた、新感覚のドーナツ

いま話題となっているのがブリオッシュ生地を揚げた「生ドーナツ」だ。ある日「アマムダコタン」の姉妹店「ダコメッカ」のオープンに向けて、新商品の試作を重ねていた平子さん。「僕は『パンストック』のブリオッシュ生地がとくに好きで、パン以外の可能性を常々探っていました」。そこで生地を揚げてみたところ、口のなかでシュワっととけるような、初めての食感に衝撃を受けたという。「スタッフみんなで試食して『これはすごい!』と大興奮したんです」と笑顔をこぼす。そのとけるような新食感にちなみ「生ドーナツ」と名付け、多くの人に食べて欲しいという思いから、生ドーナツ専門店「アイムドーナツ?」をオープンさせた。

「ブリオッシュ生地を揚げる人は、これまでもいたかもしれません。ただ『パンストック』のやわらかな口溶けのブリオッシュ生地だからこそ、この美味しさが叶いました」。まるでフリットをつくる感覚で生地を揚げ、「パンストック」の生地をさらに発展。まさにシェフだからこその視点で、新しいものをつくり続けている。

店をつくりあげる面白さを追求したい

そしてついに2021年、満を持して東京・表参道に「アマムダコタン」を初出店。「東京への進出は、昔住んでいて好きな街だったこと、なによりスタッフが未来への可能性を感じられる店でありたいと思い決めました」。さらにアナザーブランドの「ダコー」が3店舗、「アイムドーナツ?」が国内6店舗、海外1店舗、いまや都内だけでも12店舗となり、怒涛の勢いで出店ラッシュが続いている。

しかも驚きなのが、単に同じフォーマットで店を出すのではなく、1店ごとにその土地柄を考慮しながらコンセプトが異なる店をつくりあげているのだ。まずは物件を見て、この図面なら、この土地柄的にはどんな内装がいいかと、イメージしながら平子さんが自ら空間をデザイン。さらにパンのラインナップ、スタッフの制服、BGM、グッズとトータルでプロデュースしていく。例えば「ダコー」のお茶の水店では初となるカフェを併設したり、「アイムドーナツ?」の渋谷店は50種類ものドーナツを並べたり…同じフォーマットにのっとって店を出すほうがコストダウンになるが、「手間がかかって大変でも1店舗ずつ作り上げていくことに、面白さがあります」と平子さんは力を込める。

“パン屋に行くこと”を楽しんでほしい

平子さんの店づくりへの並々ならぬ情熱は、「パン屋に行くことを楽しんで欲しい」という思いゆえ。それがパンや空間、スタッフの接客など店の隅々にあらわれ、訪れる人を感動させ続けている。

「店舗が増えてスタッフも100人を超え、責任も増えました」と平子さん。「でも僕がやりたいことをやっていくのが会社として最も大事なところだと考えています」。現場を長く知るスタッフも育ち、平子さんのクリエイティブの大きな支えになっている。「やりたいことはまだまだいっぱいあるので、整理していきたいですね(笑)」。いつも驚きとときめきを感じさせてくれる、平子さんの新作や新店舗からこれからも目が離せない。

ACCESS

AMAM DACOTAN
福岡県福岡市中央区六本松3-7-6AMAM DACOTAN六本松
TEL 非公開
URL https://amamdacotan.com
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