無農薬、無肥料にこだわった野菜を作り続ける「おかもファーム」岡本高憲さん/千葉県館山市

有機野菜を育てる動きが全国各地で広まっているなか、「おかもファーム」岡本高憲さんの農法は緑肥以外は畑に何も入れないシンプルなスタイル。自然に恵まれた千葉県館山市の山間地にある9反(約2700坪)の畑で、妻と子どもの家族3人で無農薬、無肥料という自然栽培を行う。「安全で安心、人と生き物の心と体に優しく、大地の力で育つほっこりとした野菜をお届けすること」が使命だという岡本さんに、その想いを聞いた。

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日本における有機野菜の先駆地

千葉県の南端の館山市といえば長く続く海岸線、サーフィン、スキューバダイビングなど、海のイメージが先行するが畜産業、また花卉、野菜、果樹の栽培が盛んである。

関東有数の日照時間と一年を通しての温暖な気候、ミネラルを含んだ海風、排水性の高い土地に田畑があることで年間を通して作物の栽培や二毛作ができる。

南房総の三芳地域では約半世紀ほど前から有機農業が始まっている。食べ物に不安を抱いていた首都圏の消費者グループと「安全な食べ物を自分たちの手で生産したい」という志を抱く、この地域の農家が手を組み、当時は不可能と言われていた有機農業に取り組み、安心・安全な農産物の生産を続けている。

農家は生産したものを買い上げてくれることで収入は安定。何十年も継続していることで有機農業は盛んになり、それを耳にした農家を志す新規参入者が、この地に増えている。言わば日本国内における有機農業の先駆地でもあるのだ。

農業経験ゼロからのスタート。17年目の現在地

「おかもファーム」代表の岡本高憲(おかもとたかのり)さんは30歳を前に「農業をやりたい!」と一念発起。実家も農家という訳ではなく、農業の経験も知識もゼロで、あるのは強い決意だけだった。

館山で生まれ育った岡本さんは、東京の専門学校を卒業後、農林水産省に就職し、10年間勤め、いざ農業の道へ進むと、有機農業や農業経営について学ぶため高知県と地元NPO法人が共同事業として運営する有機農業技術と次世代の農業担い手を育成する「土佐自然塾」へ入塾。有機農業や経営について学ぶ。そして故郷の館山で土地を探し、人から人への縁があり理想とする土地に出会い「無農薬、無肥料」の手法にチャレンジ。「安定していた公務員時代に比べたら、だいぶ収入の面は減っていますが、毎日自然と向き合いながら、自分の好きなことができているので非常に満足度が高いです」と完全に土の力のみで野菜を育て17年目となる。

無農薬、無肥料で土壌の健康を生かす

元々、野菜好きの岡本さんは「どうせなら他の人が、やっていない方法でチャレンジしてみよう」と自然農法に近い野菜作りを、就農1年目から取り組んだ。無農薬で化学肥料を使わないため土壌や水質など環境への負荷が少なく、有機肥料も使わないため、それらを仕入れる経費もかからない。一番のメリットは野菜本来の味を楽しむことができるが、当初は一定の収穫量を得るのに時間がかかったという。試行錯誤をしながら、土の力を信じてここまでたどり着いた。大変なチャレンジだったと想像するが、柔和な笑顔でこう答える。

「毎日の農作業に必死でしたが、やっていることが楽しくて苦労は感じませんでした」

畑で採れたものは、また畑に返すという考え方

土の力に頼るなか、植物そのものを肥料として利用する緑肥を行う。マメ科植物を畑のあちこちに植えることで根粒菌(こんりゅうきん)が持つ作用を発揮させている。
この根粒菌は、土壌にいる微生物のことで、マメ科植物の根に根粒と呼ばれる小さなコブを大量に作り、空気中の窒素を植物が利用できるアンモニアやアミノ酸に変え植物に提供する働きをする。いわば自然の肥料工場のような働きをする一方で、根粒菌は植物の根からエネルギーとなる糖をもらうことで、窒素成分の少ない土壌でも野菜作りにプラス影響を与える。

また、岡本さんは収穫時期が過ぎた作物を細かく砕いて畑の土に返す。雑草の管理が課題としながらも、その雑草も細かく砕き畑の土へと返している。「畑の中でできたものを土に返す。その繰り返しで農作物のできが良くなりました」と岡本さん。1枚の畑でも日当たりの良い場所、悪い場所、水捌けが良い場所、悪い場所、緑肥の配置など特性もそれぞれだが岡本さんの言葉を借りるならば「畑をデザイン」しているのだ。

生産者と消費者、お互いに顔の見える関係

無農薬、無肥料は自然の力を最大限に生かす方法だが水は雨水のみ。この土地は、ほどよく湿り気があり、雨が降っても水分の抜けがいい。粘土質でもなく乾燥もしていない。1ヶ月、雨が降らない時でも作物は枯れないとのこと。土の状態は格段に良いのだ。

岡本さんは試行錯誤を続けるなか、この畑の土に、合う野菜、合わない野菜も分かり、現在はナス、ピーマン、オクラ、空芯菜、モロヘイヤ、ゴウヤ、ジャガイモ、ニンニクなど、約50種類ほどの野菜を生産。同じ品種を作ることで起きる連作障害も多品種を作ることでリスクヘッジへの有効な手段となっている。

また「おかもファーム」で収穫されるものは、野菜本来の味が濃く風味と甘みも強い。岡本さんは「肥料を使っていないからこそ、野菜本来の味が出ていると思いますし、同じ農法でも作り手や土によって味は変わると思います。おかもファームの味が出ているのではないでしょうか(笑)」と笑顔で話した。また野菜そのもののできも年々、良くなっているという。

一方で、売り先を開拓することは簡単ではなかった。当初は「おかもファーム」の連絡先が記載されているラベルを貼って直売所で販売。また地域の行事やイベントにも積極的に参加し、チラシ配布やネットワーク作りを行い顧客を少しずつ開拓していった。

「おかもファーム」で採れる旬の野菜は口コミで広がり、今では季節の野菜数種類が入った“おまかせセット”として販売し好評を得ている。そして取引先は約40軒にまで増え、岡本さん自らがハンドルを握り自宅配送や宅配などで首都圏の顧客に新鮮野菜を届けるのだ。

ちなみに岡本さんの野菜を購入するには、たったひとつのルールがある。それは「おかもファーム」の畑に足を運んでもらい、ありのまま野菜作りを知ってもらうこと。

「実際に畑に来てもらい、この畑の状態を知ってもらいたいですし、私という人柄を含めて知ってもらう。お互いがお互いを知る、顔の見える関係でいたいと思っています」

地産地消

販路を大きく広げるならば首都圏にターゲットを絞る手段もあるが、「なるべく地元で作られた食材を地元の人に食べて欲しい、それが体にも一番良いと思っているので」という岡本さんの願いがある。

地域で生産したものを地域で消費する。その土地ならではの旬な食材を新鮮な状態で楽しみ、地域農業の活性化や食料自給率の向上につながるメリットがある。地域で生産されたものが、地域内で消費され地域の経済循環にもつながっていく。

千葉県では県内全域の取り組みとして、千産千消と名付け「ちばの恵みを取り入れたバランスのよい食生活の実践による生涯健康で心豊かな人づくり」を基本目標に掲げて地産地消を推進。毎年11月には「千産千消」デーが設定されている。

また、岡本さんは、近くの保育園に新鮮なジャガイモを寄付。それを給食の時間に提供してもらうことで、地元で採れた食材に興味をもってもらうための活動も行っている。

土と野菜、そして人と人がつながっていく

2012年に安房農業事務所が開催したセミナーに集まった個々の生産者が情報交換や勉強会を開き、親交を深めたことから発足したのが「南房総オーガニック」だ。グループの初代会長を務めた岡本さんを筆頭に、この地域で化学合成農薬や化学肥料不使用にこだわり、野菜や米、果物の栽培に取り組む若手6農園によって構成される。

現在、「南房総オーガニック」は毎月第1日曜日に館山市内の館山パイオニアファームにて「日曜マルシェ」を開催。農作物の直売や加工品、農作物の栽培相談など顔の見える関係を大事にしながら地元消費者と交流をする場ともなっており、好評を得ているとのこと。

また将来、農家として独立したい人を研修生として募集し、各農園を周りながら独自の経営スタイルや有機農業を、見て、聞いて、学び、南房総の地で一緒に有機農業を盛り上げていける仲間作りも推し進めている。

食べてくれる人の笑顔を増やし、喜んでもらえること。それが今後の目標なのだそうだ。

「与えられる人になりたいですね。与えることで周りの人に喜んで欲しいですし、それがいつか自分に返ってくる。自分の農園を大きくすることにもつながると思っています」

就農を応援しながら、土と野菜作りで人と人がつながる。有機農業を通じての地産地消の輪が、ここ「おかもファーム」から広がっていく。

ACCESS

おかもファーム
千葉県館山市
TEL 090-4628-2678
URL https://okamo-farm.com/
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