“日本的フランチャイズ”が生む、成長するお菓子づくり「株式会社シャトレーゼHD」/山梨県笛吹市

山梨県に本社を置くシャトレーゼは、創業当初は農業を営む全くの素人が“手助け”から始めた小さな菓子店だった。時代に合わせて需要を読み、常に変化を重ねながら“日本的なフランチャイズ”の輪を広げるシャトレーゼはいかにして成長し、今後どうやって飛躍していくのか。

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全くの素人から始まった商売の道

富士山を一望できる笛吹川のほとり、山梨県笛吹市石和町に洋菓子店・カフェ・ホテルが隣接する「YATSUDOKI TERRACE 石和」がある。「雄大な景色が見られるいい場所です」と、話すのは齊藤貴子(さいとうたかこ)さん。菓子の製造・販売、フランチャイズビジネスを展開する「株式会社シャトレーゼHD」の社長だ。2018年に就任して以来、従来の事業に加え、現在は新たなホテル事業にも尽力している。

シャトレーゼは昭和29(1954)年、貴子さんの父、齊藤寛(さいとうひろし)さんの弟が今川焼き風のお菓子「甘太郎(あまたろう)」の販売店を山梨県甲府市(旧紅梅町)で開業したところから始まった。しかし、このお店は上手く軌道に乗らず、弟を手助けしてくれないかと父親に頼まれた寛さんが同年、経営に加わった。それまで専業農家であった寛さんにとって商売の世界は未知の領域。「全くの素人からの出発に不安もあった」と当時を振り返る。

寛さんが手助けをした結果、お店は少しずつ軌道に乗り始め、店舗数を増やしていった。しかし焼きたてを売りとしていた「甘太郎」は、寒い冬の売れ行きは良いが、暑い夏は売り上げが上がらないという問題を抱えていた。そこで寛さんは夏の対策としてアイスクリームの製造販売を開始することに。

しかしいざ工場を作り製造をスタートさせると、アイスクリームの市場は主に大手メーカーが押さえていることがわかる。どれだけ営業をしても良い売り場を用意してもらえず、結局アイスクリーム事業は赤字続きとなったという。そこで寛さんは大手メーカーと同じ土俵で勝負しているのでは上手くいかないと、戦略を模索。当時小売店などには生鮮食品用の冷蔵庫などがまだまだ未導入だった点に着目し、「日持ちのしないお菓子ならば大手は計画生産を設計できないのでは」と、「シュークリーム」の研究開発をスタートさせた。その後の昭和42年(1967)、「株式会社シャトレーゼ」に社名を変更し、本格的にシュークリームの生産を開始する。

「冷蔵庫が無いなら、陳列したらすぐに売れてしまう価格で売り切ってしまえばいいと考えたんです」

手に取りやすい安価な価格設定に舵を切り、他社が1つ50円で売っていた所を、10円と破格で販売をスタートさせる。するとこの戦略が功を奏し、1日50万個製造するシャトレーゼの主力商品へと成長した。

自信が確信に変わった瞬間

小さな店舗から始まったシャトレーゼは、今や日本で有数のお菓子フランチャイズ店へと成長している。フランチャイズとは、個人や法人が事業者と契約し、対価(ロイヤリティ)を支払うことで、店名や商品、サービスを販売する権利を得るビジネスモデルのことだ。

ターニングポイントは、まだ県内の小売業者に製品を販売する“卸売り”を専門としていた時のこと。親交のあった関西の菓子店に好意で製法などをアドバイスした所、業績はみるみる向上。ついには上場まで果たしてしまったという寛さんの実体験があった。「自分たちの商品なら全国で通用する」という強い自信が、フランチャイズビジネスを考え始めるきっかけとなったそうだ。まずは足がかりとして工場で作った商品を直接ユーザー販売するための直営店をオープン。畑の中にポツンと立つ店舗で、齋藤さんの父・寛さんは直営店だからこそ提供できる、卸売り金額での販売を実験的にスタートさせる。「小売業界へのチャレンジだった」。そう語る寛さんの熱意は、他社商品に比べて34%も安価な値段となって消費者へ届くことになった。

続いて昭和61(1986)年に、子会社があった千葉県で県外初となる工場直営店をオープン。「安くて美味しい」シャトレーゼのお菓子は瞬く間に好評を呼び、直営店の施策は大成功を納める結果となった。これをきっかけに全国各地から工場直営店の出店申込が相次ぎ、フランチャイズビジネスによる全国展開が始まっていく。

「日本的」にこだわるフランチャイズの輪

そもそもフランチャイズというビジネス形態の発祥はアメリカであり、当時の日本ではあまり馴染みのないものだった。その上でシャトレーゼがこだわってきたフランチャイズモデルについて「アメリカの真似をしている訳では無く、あくまで日本的なんです」と、齊藤さんは強調する。その真意は「ロイヤリティをとらない」という革新的な方針にあった。ロイヤリティとは、商品やノウハウの利権が付与される対価として伴う「利用料」のようなもので、多くの場合は売り上げ金額の数%が利用者から支払われる。しかし、シャトレーゼの展開するフランチャイズビジネスではそれを一切なくしているのだ。条件は資金の用意や、店舗選定などの開業準備を負担すること。そして「まずお客様に喜んでいただく、それから取引先様に喜んでいただく、そして社員に喜んでいただく」というシャトレーゼの「3喜経営」の理念に賛同してもらうこと。それ以上は何も求めないのだと言う。

「ビジネスライクな関係ではなく、仲間なんです。フランチャイズビジネスにおいて、店舗側のオーナーと良い関係性を築くというのはとても重要。お金ではなく理念を通じて企業価値を共有しあう『日本的』な繋がりを大切にしています」

海を越えるシャトレーゼ

現在シャトレーゼの店舗は日本国内のみならず、インドネシア、シンガポール、マレーシア、香港、アラブ首長国連邦、タイ、ベトナムと、世界各地に点在している。そこでも、「ビジネスパートナーではなく仲間」という「日本的」なフランチャイズ形態や3喜経営の理念を伝え、経営方針の共有をはかっている。

その際、海外の方も「日本的」な理念を非常に良く理解し、共感しながらコミュニケーションをとってくれることに「とても驚いた」と齊藤さんは話す。商品や看板だけでなく、掲げる理念ごと共有することで築かれる「仲間」という関係性は、今もなお海を越えて広がり続けている。

一段上のシャトレーゼを味わう「YATSUDOKI」

令和元年(2019)、シャトレーゼの新たな展開として話題を呼んだのが、従来の商品ラインナップと一線を画す新ブランド「YATSUDOKI」の誕生だ。スポンジを作る材料の卵一つをとっても「山梨県内の契約農家から直接生みたての物を仕入れる」こだわりのプレミアムブランドで、土産品やお遣いの品として幅広いニーズを得ている。元々、誰もが気軽に購入できる比較的安価なお菓子を提供する方針をとってきたが、その反面「ギフト用としてのニーズが生まれないのではないか」という懸念があったと話す齊藤さん。そこで構想が立ち上がったのがこの「YATSUDOKI」ブランドだった。

名前の由来は「八つ刻(やつどき)=午後3時」の「おやつ時」からきているそうで、「八」の字には山梨県北部にそびえる雄大な八ヶ岳のイメージも込められているそうだ。実際に「YATSUDOKI」の商品は八ヶ岳山麓の肥沃な大地で育まれた素材を使用しており、「美味しいお菓子を作りたい」という思いを共有する農場や牧場と共に畑や土、家畜の飼料などから徹底的に話し合いながら商品作りに取り組んでいる。「手作り感やフレッシュな味わいを感じていただけるようなものになっています」。現在は「一段上のシャトレーゼ」として宮城・埼玉・東京・神奈川・山梨・長野・京都・兵庫と各都府県に次々とショップを展開している。

シャトレーゼのこれから

原料費や輸送費の高騰などが騒がれる昨今、お菓子業界も苦境に立たされている。中でも厳しい状況となっているのが、お菓子の原料を作る生産者だ。

「山梨にいると生産者さんたちの窮状がよくわかります。恐らくそれは県内に限ったことではない。より良い製品を作っていくためにやらなければならないことがたくさんあると思っています。彼らを手助けするためにも、まずは拠点である山梨の地で新たな試みを実践し、そこで得たセオリーを各地に広げていきたいです」

齊藤さんは今後取り組んでいくべき課題として「無人化」に着目しているとのこと。工場生産における新システムの構築や、AIを使った自動発注の導入など、「根本的な仕組み作りにチャレンジしていく事で、原料費の削減に踏み切らずとも品質を維持していく方法を模索していきたい」と今後の展開を語る。シャトレーゼのチャレンジが、巡りめぐって生産者への助けとなっていく。まさに理念として掲げている「3喜経営」そのものだ。

製造ラインの機械化について「人の手で作るお菓子には敵わないのではないか」と心無い言葉をかけられることもあると言う。「勿論、人の手にどうしたって敵わない部分はあります」と前置きしながらも、「それでもトップレベルのパティシエに技術指導を仰ぎ、機械生産でいかにその技に近づけられるか、手作りと同じお菓子を作ることができるかを日々研鑽し、技術レベルを高めています」と、ネガティブな意見を真っすぐに否定した。

「それくらい大きな改革をしていかないと時代に乗っていけないですから」

時流の変化を敏感に察知し、洋菓子の製造、フランチャイズビジネス、そしてプレミアムブランドの確立と、常に業態をブラッシュアップさせながら大きな成長を遂げてきたシャトレーゼ。時代を乗りこなす柔軟な姿勢を留めることなく、逆境の中で更に大きな飛躍を狙っている。

ACCESS

株式会社シャトレーゼHD(YATSUDOKI TERRACE 石和)
山梨県笛吹市石和町八田286
TEL 055-261-0388
URL https://www.chateraise.co.jp/ec/default.aspx
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