星つきの料理人たちが求める幻の白子筍。その最上級を追求する「たけのこ旬一」/京都府京都市

春の味覚の王様ともいわれる、たけのこ。奈良時代に書かれた「古事記」にも登場するほど、古くから日本人に親しまれてきた食材だ。中でも京都府でとれる「白子筍」は、その希少性から“幻のたけのこ”と呼ばれる一級品。オリジナルの栽培方法で最上級の白子筍を追い求める「たけのこ旬一」の職人技に迫った。

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京都が誇るブランドたけのこ「白子筍」

たけのこの名産地として知られる京都だが、生産量は福岡県、鹿児島県につぐ全国3位。シェアでいうと全体の1割程度と決して多くはないが、それでも京都のたけのこが特別とされる理由が二つある。

まずひとつ目は、土。粒子が細かい粘性質の土は、まるでアスファルトを敷いたかのようにたけのこを地中に長くとどまらせ、じっくりと時間をかけて育てる。たけのこは空気や光にふれると急速に生長して硬くなり、エグ味も増すため、空気や光を通しにくい粘土質の土壌は甘く柔らかいたけのこを育てるのに最適だ。二つ目は、かつて都があったことに由来する、京都独自の栽培法が確立されていること。竹林に藁を敷き詰めたり、その上からまた土を被せたり。どうすればよりおいしく美しいたけのこができるのか、長い歴史の中で先人たちが試行錯誤を重ねながらたけのこづくりに取り組んできた。その結果できたのが、京都が誇るブランドたけのこ、白子筍だ。白子筍は、土をかぶせて日光に当てずに育てるため純白で柔らかく、それでいてシャキシャキとした食感が魅力。非常にめずらしく、栽培に手間がかかることから“幻のたけのこ”とも呼ばれている。 

その中でも、洛西地区の塚原というエリアで生産される「塚原産」のたけのこは、白子筍の最上級。柔らかな肉質とエグ味のない上品な味わいが特徴で、一般にはほとんど流通しないほど、特に高いブランド価値を誇っている。

肥料や除草剤への疑問からオリジナルの道へ

白子筍は一般的なたけのこと比べて非常にやわらかいため、注意して掘らないとすぐに崩れてしまう。そもそも地中に留まって成長する白子筍を探し当てること自体、至難のわざ。収穫だけでも大変な手間のかかるたけのこづくりに、「やるからには、とことんしなければ気が済まない」とさらなる心血を注ぐのが「たけのこ旬一」の田原一樹さんだ。

「農家としてたけのこをつくっていた祖父の手伝いがきっかけで小学5年生の頃から竹薮に入って、今年で42歳です。最初のうちは、初めてのことばかりで何もかもが楽しくて。それが高校生くらいになってくると『何のためこの肥料を使うんだろう?』『なぜ除草剤をやるんだろう?』と疑問を持つようになりました。祖父に聞いても『ずっとこれでやってきたから間違いない』と言われるだけ。疑問は解消されないまま自分で試してみたいことがどんどん増えていって、20歳の時に独立しました」

肥料を買うお金もなく、祖父から譲り受けた軽トラ一台からのスタート。同時に、たけのこだけで食べていくのは難しいと考え、農業の合間でも働ける鍼灸マッサージ師の免許を取ろうと東洋医学を学んだ。その勉強がきっかけで、口に入れるものがどれだけ体に影響を与えているかを知り、肥料や土について一から考え直す日々が始まった。

たけのこづくりは土づくり

化学肥料に頼らず、身の回りのもので代用できないか。そう考えながら市場にある蕎麦屋で食事をしていた時、「このおいしい出汁を、たけのこにも食べさせられないだろうか」と思い立つ。すぐにどんな材料を使っているのかを尋ね、出汁をとった後の昆布や削り節を分けてもらった。他にも豆腐店からおからをもらって撒いてみたり、市場にあるマグロ専門店から廃棄される部位を譲り受けて肥料をつくったり。「本当においしい」と思えるものに出会った時はいつも、たけのこづくりに活かせないか考えるようになった。

「他のたけのこ農家さんからは、『変わったことやってるな』『そんなもの入れて何になるんだ』と言われ続けてきましたが、勉強するにつれて、このやり方が理にかなっていることもわかってきました。山には海のものが足りないから、ミネラルやアミノ酸を多く含んだ魚、昆布、貝殻などを土に混ぜることで、栄養が豊富な土になる。除草剤を使っていないので、草も普通に生えてきて草刈りが大変です」

時には失敗もしながら、それでも自分の納得できるものをつくりたい一心で挑戦を続けてきた。一流のたけのこは一流の料理人に使ってもらいたいと、ミシュランガイドを開いては電話をかけ続けた。無名の若者からの突然の売り込みは相手にされないことがほとんどだったが、たとえ気まぐれでも一度買ってもらえると手応えは良く、「おいしかった」「次はいつ買える?」と言われることがよくあった。そんなやり取りを繰り返すうちに料理人同士の口コミで引き合いが増え、今では全国のミュシュラン星つき料理店で田原さんのたけのこが提供されている。

収穫後のたけのこは鮮度が命

たけのこ旬一のもうひとつのこだわりが、“鮮度”だ。たけのこは成長が早い分、劣化も早い。「朝掘ったらその日のうち食べろ」と言われるほどで、時間がたつほどえぐみが増し、常温で置いておくとすぐに硬くなってしまう。「できる限り良い状態で、お客さまに届けたい」そう考えた田原さんが導入したのが、朝掘りを新鮮なまま運べる保冷蔵車だ。「たけのこには乾燥と日光が大敵です。掘りたてを店先に並べて売るなんて、新鮮な魚を日光の下に並べて常温で売っているようなもの」と田原さん。採った後の品質管理まで徹底するのが、生産者としての責任だと話す。

現在、生のたけのこは料理店への直販のみ。新鮮なまま発送され、クール便で届けられたたけのこは「エグ味が少なく甘みが強い」「生でかじるとフルーツのよう」と評判だ。

おいしいたけのこを、より多くの人に届けたい

一般の人にとってたけのこは、何枚もの皮を剥いて、湯がいてアク抜きまでしないと食べられない面倒な食材。たけのこ旬一の味を少しでも多くの人に届けたいという思いで始めたのが、「たけのこ水煮」の通信販売だ。朝採れのたけのこが新鮮なまま水煮になって届くとあって、在庫ができてはすぐに売り切れる人気商品となった。

たけのこのアク抜きは通常2時間ほどかかると言われているが、田原さんのたけのこは40分。生のままでも柔らかくえぐみが少ないので茹で時間が短縮でき、その分たけのこらしいシャキシャキとした食感が残っているのが、おいしさの秘訣だ。

2024年からは、3種の味が楽しめる「筍アヒージョ」の販売も開始した。何度も試作を重ねてたけのこに合うオイルや食材を厳選し、京丹後で水揚げされた魚介、青森産のニンニク、国産の鷹の爪など、素材にこだわって完成した商品だ。自慢のたけのこは、食感を楽しんでもらえるよう大きめにカットしてふんだんに使用した。和食のイメージが強いたけのこを洋風にアレンジして若い人にも食べてもらえるように、オイル漬けにすることで保存期間を延ばし、より気軽に手に取ってもらいたいという思いが込められている。

努力次第で、農業は夢のある世界に変わる

古くから私たちの身近にあったたけのこだが、夏の高温と雨不足の影響で、収穫量はかつての半分にまで減っているそうだ。でもそこは、努力と手間暇を惜しまずたけのこと向き合ってきた田原さん。「環境の変化を言い訳にしたくない」と、数年前からスプリンクラーでの水やりを始め、不作と言われ続ける中でも一定の収量を確保しているという。広大な竹藪に水をやるなど、たけのこ業界では前代未聞。それでもチャレンジを続けるのは、「夢があるから」だと話す。

「僕は、たけのこと並行して鍼灸マッサージ師の仕事があるので、たけのこが採れる3月下旬から5月上旬以外の時期でも食べていける。でも本当は、たけのこだけで食べていける未来をつくるのが目標です。実際に外に目を向ければ、放置竹林も多いし、重労働ゆえ担い手も減っている。それに伴って収量も年々減少しているし、もしかすると数年後には、たけのこがテーブルに並ばなくなる可能性だってありえる。だからこそ、相場に任せて値付けされてしまうのではなく、こだわりや努力をちゃんと対価として受け取れるような仕組みづくりを目指していきたいと思ってるんです。そのためにしっかり値段をつけてたけのこの価値を上げているし、その値段に見合う努力もしています。自分の努力次第で、農業は夢のある世界に変わることを次の世代に見せたいと思っています」

そのためにもっと知りたいこと、試してみたいことがまだまだたくさんあるという田原さん。たけのこの世界から、今後はどんなニュースが聞こえてくるだろう。そこに田原さんの名前を見つけるのが、今から楽しみだ。

ACCESS

京都塚原たけのこ旬一
京都府京都市
TEL 090-7113-1202
URL https://takenokosyunichi.com/
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