漆に浮かぶ夜景
学生のときの美術クラブの先生がたまたま漆の先生だったということから、漆と出会ったという漆芸家の三好かがりさん。器、箱、カップなどさまざまな作品を手がけるが、その特徴のひとつが螺鈿の技法を用いた作品だ。漆で黒く塗られた上に、ポッと浮かぶ街。窓からもれる部屋の灯り。車のヘッドライト。横浜ベイブリッジの電灯。そういった光が箱に浮かび上がり、ひとつの夜景がそこに現れる。この光は螺鈿で描かれる。きらきらと輝き、どっしりとした漆の色の背景と重なり、鮮やかさが浮き立つ。
「初めて螺鈿の技法を見たとき、漆ってこんなことができるんだと感動したんです。あらゆる色を使うことができる。それで自分もやってみようと。実は、その頃はよく飲み歩いていたので、自然と夜景がモチーフになったんですね…」。そう笑って、夜景をモチーフにしたきっかけをお話してくれた。
さまざまなモチーフを描く
夜景のほかにも、さまざまなものを作品に投影する。取材の際には、個展に向けた制作の途中だった。今度のテーマは「縞帳(しまちょう)」。昔の着物の端切れを手帳に張り、サンプル帳にしていたものを縞帳というのだが、それを漆と螺鈿で表現するのだという。
「作品のモチーフはどこから?」と中田が聞くと「いいなと思ったものは自分の中の引き出しに入れておくんです。風景だけじゃなくて、例えば映画なんかでもいいなと思ったものはそうしておく。それであとから取り出して、これをやってみようって」
そういう三好さんの作品には、音楽をモチーフにしたもの作品もある。ご自身がグレゴリオ聖歌を歌うこともあり、その楽譜を箔絵で描いたものや、楽器を螺鈿で表現したもの。様々なモチーフが漆芸作品の中に取り入れられ、ある種のファンタジーさを醸し出しているようだ。これも三好さんの「いいな」が込められている証拠なのだろう。
コラボレーションで新たな魅力を
「中田さんにプレゼントしようと思って」と三好さんが手渡してくれたのが、ソムリエナイフ。手元の部分が漆と螺鈿で彩られ、「うわー、これはいい!」と中田も大興奮。この作品は、金工作家の鬼塚恵司さんとのコラボレーションで制作したのだという。
このほかにも三好さんが他の素材を用いる作家とコラボレーションした作品をみせていただいた。東日本伝統工芸展に出品する予定だという小箱。内側には螺鈿で夜景が描かれ、それ自体でも美しいのだが、三好さんが「これをね」といって持ち出したのが、ガラスの蓋。それをかぶせて上から見てみると、突如、光が飛び出してくるように見えて、まったく違った世界を持つ作品となるのだ。
ガラスの蓋を制作したのは、埼玉県で伺ったガラス工芸家の白幡明さん。最初はごく普通のカットガラスだったのだが、「僕がガラスを作りましょう!」といって、ガラスを絶妙にカットし、浮かび上がる光を表現してくれたのだという。コラボが見事にできあがった作品だ。
三好さんの感じる「いいな」をもとに、さまざまな創作活動に意欲的に向かう。そこからどんなものが生まれてくるのか今後も楽しみだ。