聖徳太子創建の古刹。山城の趣きを残す「百済寺(ひゃくさいじ)」

聖徳太子創建の古刹。山城の趣きを残す「百済寺(ひゃくさいじ)」

日本紅葉百選にも選ばれ、滋賀屈指の紅葉スポットとして知られる「百済寺(ひゃくさいじ)」は、聖徳太子によって創建された滋賀で最も古いお寺のひとつ。紅葉シーズンを外せば、静寂に包まれた趣きある古刹で、ポルトガルの宣教師ルイス・フロイスが「地上の天国」と絶賛したとも言われている。


自然の息吹を感じるパワースポット

「百済寺」は、琵琶湖の東側・湖東地域にある天台宗の寺院。近隣にある「西明寺(さいみょうじ)」「金剛輪寺(こんごうりんじ)」とあわせて「湖東三山(ことうさんざん)」の総称でも知られており、秋になると紅葉を愛でる多くの観光客で賑わう。

鈴鹿山系の中腹に位置する山奥に83haにも及ぶ広い境内があり、落葉樹が約5,000本、常緑樹が約25,000本自生している。新緑、紅葉、雪景色と四季折々に多様な植物が寺院を彩るため、別名「百彩寺」とも呼ばれている。


近江の国、最古級の寺院


百済寺は1400年以上前の飛鳥時代、聖徳太子が朝鮮半島から渡来した百済人(くだらびと)のために百済国の「龍雲寺」を模して創建したと伝えられている。歴史ある寺院が多い滋賀の中でも、最も古いお寺のひとつに挙げられる。平安時代に比叡山に天台宗が開かれてからは、天台宗の寺院となり、室町時代にかけて繁栄した。

夕日の向こうの百済国に馳せた、望郷の想い


百済寺は北緯35度線上にあり、西の方角には比叡山、鞍馬山を経て、880km彼方に百済国があったため、創建当時は、日本に仏教を伝来した渡来僧や先進的な技術を伝えた渡来系氏族の氏寺として発達した。多くの渡来人が百済寺の地から、夕日の向こうにある母国を偲んだと言われている。


信長やルイス・フロイスも魅了した「地上の天国」

名だたる人物の歴史舞台としても知られている。戦国の覇者、織田信長もこの寺に魅了されたひとりで、百済寺を気に入り、生涯で唯一の勅願寺と定めたという文献も残っている。また当時、ポルトガルから来日していた宣教師ルイス・フロイスも「地上の天国 一千坊」と絶賛するほど、百済寺は見事な寺院だったという。しかしその後、信長と敵対していた六角軍を百済寺がかくまったと判断され、信長による焼き討ちに遭い、その多くを焼失することとなった。

江戸時代に入り、徳川幕府や彦根藩の寄進を受け、本堂や仁王門、山門(赤門)等は再建され、いまに残っている。


近江の歴史舞台が一望できる「天下遠望の名園」

百済寺山門から参道に沿って400mほど登ったところに「本坊喜見院(きけんいん)」があり、その書院に面し、「天下望遠の名園」と名付けられた大きな池泉鑑賞(ちせんかんしょう)式庭園がある。

背面の鈴鹿山脈を借景に、変化に富んだ巨岩を組み合わせて築庭されており、山から流れ出る渓流が、鯉の泳ぐ池へと流れ込んでいる。

庭園は山の方へと続いていて、頂部の遠望台からは、近江の歴史舞台となった比叡山や湖東平野も見晴らせる。


苔むす岩が醸す、神秘的な空間


庭園の周囲には、苔むした巨岩がありのままの姿をとどめている。寺院周辺には重厚な石垣や石段が創建当時の姿で残っているため、山城の様相も呈していて、多くの歴史映画やドラマのロケ地にも使われているのだそう。

自然と歴史が調和した神秘的な空間は、ただ佇んでいるだけで、心が癒され、浄化されていくようだ。


本堂・仁王門・山門など、見どころは他にも

百済寺の本堂に安置されている本尊は全高3.2mの「十一面観世音菩薩」。現存する奈良時代最大級の木造仏である。聖徳太子が山中で光を放つ霊木の杉を見出し、立ち木のまま彫ったといういわれから「植木観音」とも呼ばれている。信長の焼き討ちにより本堂が焼失したときも、僧侶たちが8km先の山奥まで運び、難を逃れたという。


百済寺の入り口「赤門」

境内の入り口にある朱塗りの山門は通称「赤門」と呼ばれている。新緑の緑や、紅葉のオレンジとの対比が美しく、写真映えスポットになっている。ここには一時停止用の駐車スペースしかなく、車で訪れた場合は通り過ぎてしまうこともあるので注意が必要。

また「仁王門」に掲げられている約3mの大きな草鞋(わらじ)に触れると身体健全・無病長寿のご利益があると言い伝えられている。直木賞受賞作家としてもしられる「百寺巡礼」の作家、五木寛之氏も百寺満願成就を込めて触ったそう。


夏に満開となる菩提樹

通用門から表門にかけて広がる南庭。夏になると、菩提樹の可憐な花が満開となり、周囲に上品な香りが漂う。これは、本堂脇にある千年菩提樹の子株が育ったもの。花の香りに誘われた、ミツバチや小さな昆虫たちが蜜を求めて集まり、羽音を響かせる。香りと一緒に、小さな生命の営みも感じてほしい。

ほかにも境内には、樹齢430年と推定される「観音杉」や「弁天堂」、苔むした石垣が続く「参道」など、1400年前から変わらない、自然が織りなす景観や歴史的いわれのあるスポットが多彩。

山全体が真っ赤に染まる紅葉シーズンもいいが、静けさに包まれた朝の境内や、琵琶湖へ落ちる夕日の眺めなど、紅葉だけじゃない百済寺の“百の彩り”を楽しんでほしい。

ACCESS

百済寺
滋賀県東近江市百済寺町323
TEL 0749-46-1036
URL http://www.hyakusaiji.jp/