源義経も絶賛した竹ちくわとは
徳島県小松島市にある谷ちくわ商店は、60年以上「竹ちくわ」をはじめとした練り物を専門にしている。
全国的に販売されているちくわは穴が開いているのに対して、竹ちくわは竹が中心についたまま販売されているのが特徴だ。食べ方としては、竹をもってかぶりついたり、すだちを絞って食べたりするのが一般的だそうだ。
谷ちくわ商店がある小松島は『平家物語』の名場面としても有名な“扇の的”が行われた地で、源義経の軍勢が上陸したともされている。当時海岸で漁師たちが魚のすり身を青竹に巻き付け焼いて食べているのを見て義経が自分も食し、大変賞賛したという逸話まで残っている。このように義経が絶賛した伝統の味をいまなお受け継ぎ、廃れないようにこだわりを持って生産しているのが谷ちくわ商店である。
絶妙な職人技が生み出す練り物
古くからの伝統の味を守り続けている谷ちくわ商店であるが、過去の味をそのまま再現しているだけではなく、常に磨き上げられている。熟練の職人によって加水量を調整し、丁寧にしっかりとすり上げることによって、練り物本来の弾力が出る。ここで水分量が多すぎると、弾力がなくなってしまう。逆に水分量が少なすぎても、身が硬くなってしまい本来のおいしさを引き出すことができなくなる。職人による絶妙な調整が、今なお愛される練り物を支えている。
また原材料にもこだわっている。等級の高い魚肉のすりみをつかい、その持ち味を引き出せるように、でんぷんの量も最小限に留めている。そのため魚介類特有の生臭さが抑えられ、誰でも食べやすい仕上がりになっている。
そのまま生ですぐに食べられる手軽さも、練り物本来の良さである。
老舗が作る徳島のソウルフード
竹ちくわの他にも谷ちくわ商店には徳島のソウルフードがある。
その一つが「フィッシュカツ」である。フィッシュカツは近海で漁れた太刀魚やエソ、すけとうだらといった魚のすり身にカレー粉や調味料、スパイスなどで味をつけ、パン粉の衣をつけて揚げたものだ。昭和30年に津久司蒲鉾が考案し、その後小松島の他のお店がオリジナルレシピで作るようになり、今では徳島県内中の名物となるほどに広がった。店によって具を入れたり形状を変えたりするものの、カレー粉などの香辛料で味をつけることは共通している。カレー味をつけることで冷めても美味しく食べることができ、おやつとしてもおかずとしても、おつまみとしても愛されている。徳島県で「カツ」と言えば、トンカツではなくこのフィッシュカツのことを指すらしい。谷ちくわ商店では、ほかにも、鯛入りのちくわ、じゃこ天やえび天、ごま天、詰め合わせセットはネット販売もしているので、味の違いを自宅で愉しむのもいいだろう。
このような誰にでも親しまれるソウルフードの中にも、今まで紡がれてきた谷ちくわ商店の技術が生きている。これからも谷ちくわ商店は地域の味を守りながらおいしいものを追求していくことだろう。