大正13年に設立した大阪府八尾市の工房。
銅とアルミを原材料にした厨房機器や調理器具を主に製造し、
代々受け継がれた技術で作られる実用的で美しい道具は、
プロの料理人にも愛されています。
知る人ぞ知る鍋作りの最高峰の工房
いい職人は、いい音でものをつくる。大阪府八尾市にある、知る人ぞ知る有限会社姫野作.の工房では、職人・姫野寿一さんが鍋を打つ心地よい音楽のような音が耳に響いてくる。
「子どものころは毎日カンカンと鍋を叩く音が聞こえてきて本当にイヤだったんです。実際に継いでからもうるさいし、大変だし、おまけに作っても売れ残る(笑)。どうしてうまく作れないんだ、売れないんだと意地になって鍋作りを追求するようになった。いかに均等にきれいに打つか、道具や座り方、力の入れ方などとことん考えてきました」
一流の料理人にも愛される手作り鍋
大正13年、約100年前に祖父が立ち上げた鍋作りの工場を姫野さんが継いだのは、30歳のときだ。彼がつくる行平鍋は、プロの料理人も愛用する逸品。その特長は、熱伝導率が高く、熱ムラがないこと。食材へ均一に熱を伝えられることで焦げ付きにくくなる。
「叩いて槌目を入れることで純度の高いアルミが締まり素材が強くなる。さらに鍋肌が広がることで熱伝導率が高くなり、食材を早く均一に煮ることができます。一般的な行平鍋は暑さが2mmですが、うちのは3mm。そのほうが丈夫で保温性が高く、安定感がでるんです」
卓越した技術と経験
行平鍋の特長ともいえる槌目(つちめ)とは、金属の強度を高めるために金づちで素材を打ち付けるとできる模様のこと。一回叩く毎にカタチができる。つまり、打ち直しをすることはできない職人の感覚が頼りの技だ。姫野さんがリズミカルに金づちを打ち付けつくる鍋の槌目は芸術のように美しい。
使いやすさと機能性をあわせもつ作品
アルミの熱伝導率は鉄の3倍よいと言われ、鉄やステンレスと比べて焦げ付きにくい。また、重さはステンレスの1/3と軽いので女性が扱いやすい一面も。空気に触れることでできる酸化皮膜は内部をサビや腐食から保護するので耐久性もあり、表面が滑らかなので洗い落ちもよく菌が繁殖しにくく衛生的でもある。まさに至れり尽くせりの一品だ。行平鍋だけでなく、親子鍋、段付鍋、八角鍋など、種類もさまざま、料理の用途によって使い分けるのもおすすめだ。
現在は、全国に10軒もないという手作り鍋の店。注文の半分はオーダーメイド。大きさ、素材、柄の付け方など、使い方やこだわりにあわせて鍋をつくる。
「一度、金の鍋を作って欲しいといわれて見積もりをとったら1000万円以上になって実現しませんでした(笑)。これまでいろいろな注文がありましたけど、いちばん変わっていたのは花園ラグビー場前にある近鉄・東花園駅の駅舎に飾ってある大きなラグビーボールかな。あれは大きくて大変でした」
「使い手と一生付き合える製品」をつくる
姫野作を打ち始めてから変わらない思いが三代目の姫野寿一にはある、
それは、「使い手と一生付き合える製品」という考えだ。市販で売られている鍋の寿命は2~3年。長く使えても5~10年が限度。そんな大量消費、使い捨ての時代において古臭い考えかもしれないが、この思いを崩すことなく日々「姫野作.」の刻印を打ち続けていきたいと思っているという。50年以上つかえるというその鍋つくりの腕は、日本最高ともいわれている。だが、職人の道にゴールはない。
「まだ1度も満足したことがないんですよ。でもだからこそ飽きずに続けていられるのかもしれませんね」
「使い手と一生付き合える製品」という考えは、今の大量消費、使い捨ての時代において古臭い考えかもしれませんが、これを崩すことなく日々「姫野作.」の刻印を打ち続けていきたいと思っています。