加勢牧場、「ガンジー牛」への挑戦
長岡市の北西部に位置する和島地域、江戸時代後期に生まれ庶民に愛された僧侶、良寛の里で知られるこの緑豊かなエリアに、国内では珍しい「ガンジー種」の乳牛を飼育している牧場がある。ガンジー種(ガンジー牛)とは、日本で200頭もいない希少品種で、現在飼育しているのは新潟、栃木、大分の3県のみ。明治末期に日本に輸入され、一般的の牛乳(ホルスタイン種)に比べ全体的に栄養価が高いのが特徴だ。
「50年前に牧場をはじめて、20年前にガンジー種を飼いはじめた。当時は馬鹿にされたこともあったけれど、今は自信を持ってやれるようになった」と語るのは、「加勢牧場」の加勢勉社長。農業高校に在籍していた高校時代、北海道の酪農家のもとで研修を受けたことで牧場生活に憧れ、昭和47年(1972年)に1頭のホルスタイン種の子牛の飼育をはじめた。平成7年には60頭を飼育するまで牧場の規模を拡大したものの、頭数に比例して仕事は過酷になるばかり、体力の限界を感じるようになった。そこで仕事量を減らして収入を維持するために、付加価値の高い良質な牛乳を生産する方針に切り替えた。出会ったのが、ガンジー牛乳だった。
現在、日本国内の乳牛はホルスタイン種、ジャージー種がほとんどの割合を占めている。英仏海峡に浮かぶカンジー島(イギリス)が原産のガンジー種は年々、減少傾向にあるという。ただでさえ数が少ない上、1日に搾乳できる量は一般的なホルスタイン種の約半分程度しかない。しかし、「どの牛乳よりもコクがあって、すっきりと飲みやすい」加勢さんはガンジー牛乳をはじめて飲んだとき、そう感じた。ガンジー種はその栄養価と味、希少性から、欧米では「ゴールデンミルク」「貴族の牛乳」と表現されてきたという。脂肪分が高いため、ジェラートやアイスクリームにも向いている。
美味しい牛乳を届けるために
全国の何軒もの牧場に譲ってもらえるよう頼み込み、ようやく加勢さんの牧場に最初のカンジー牛がやってきたのは平成9年のこと。生後1ヶ月の雌牛だった。大事に大事に育て上げ、今は牧場にその孫、ひ孫、玄孫たちが大勢暮らしている。餌は、繊維の多い牧草や糖分、タンパク質を豊富に含む牧草をブレンドした配合肥料を与えている。搾乳時はぬるま湯で濡らしたタオルで丁寧に乳をマッサージしてから消毒し、1日2回搾乳を行う。牛の体調によって乳が出やすいときと出にくいときがある。希少種がゆえの苦労もあった。「そもそも飼育している酪農家が少ないから、飼育方法や病気に関してのデータがないし、手持ちデータを共有するといった仕組みもない。獣医に相談しても、この牛はわからないと言われてしまう。」それでも、ガンジー種を育てることには魅力があるという。消費者が手にする商品は、普通の牛乳より価格が高い。それでも「美味しい牛乳が飲みたい」という需要は確かにあるのだ。
「美味しい牛乳をたくさんの人に味わってもらいたいと思ってやっているから、生産者としてはその美味しさを認めてもらえるのがいちばん嬉しい」加勢さんはそう話す。ガンジー牛乳の甘みとコク、すっきりとした飲みやすさを、これからも多くの人に知ってもらうために、消費者と生産者の距離をもっと縮め、自分たちのこだわりや現地に来るからこその体験など、生産者としてのメッセージをわかりやすく伝えるための仕掛けづくりでガンジー牛のファンをどんどん増やしていきたいと考えている。ちなみに夏期よりも冬期の方が脂肪分が高いため、ガンジー牛乳のアイスは夏はさっぱりとした味わいで、冬になるとさらに美味しさが増すそうだ。牧場から少し離れた直営店「加勢牧場―わしま本店―」でジェラートやソフトクリームなどを楽しめる。またケーキや焼き菓子などのメニューも数多く販売されている。是非一度は現地を訪れて生産者の想いに触れながらその美味しさの違いを味わってみてほしい。