世界に誇る関兼次の刃物
約300もの刃物関連企業が集まる“刃物の町”岐阜県関市。岐阜県の中央部、中濃地方にある町で市内には長良川や板取川、津保川などが流れる自然豊かなエリアでもある。関鍛冶の祖とされる2人の刀鍛冶「元重(もとしげ)」「金重(きんじゅう)」が良質な焼刃土(やきばづち)や水や松炭など、刀づくりに必要な要素が揃ったこの地に惚れ込んで移住し、日本刀をつくり始めたのがそのルーツとされている。室町時代には、「関の孫六(まごろく)」こと孫六兼元、和泉守(いずみのかみ)兼定などの名匠を輩出。最盛期には300人以上もの刀匠を有する一大産地となり、ドイツのゾーリンゲン、イギリスのシェフィールドと並ぶ世界三大刃物産地として知られている。
創業100余年の関兼次刃物(せきかねつぐはもの)は、刀匠「兼次」の末裔が創業した包丁メーカーだ。「“刃物の町”は日本にいくつか残っているが、刀鍛冶を起源に持つ産地は関市だけ。我々は日本刀に近い切れ味の包丁を目指して、日々鍛錬を積んでいます」と代表の河村充泰さん。実は、近年世界的に和食が人気を集め、それに伴って世界各地で評価を高めたのが日本の包丁だという。日本の食材を切る上で最も適したナイフが日本の包丁という評判が広まり、今では関兼次刃物の売上の約3割をアメリカやヨーロッパなど海外の先進国が占める。
多くの人に必要とされる包丁になるために
関兼次刃物の包丁の特徴は「ハマグリ刃」と呼ばれる断面にある。これは、日本刀の断面と同じもので、熟練の職人がステンレス鋼の刃をハマグリの貝殻のような曲線状に繊細な感覚で研磨し、切れ味が持続するように仕上げるのだ。100周年記念モデルである特製切付包丁「瑞雲」にもこの技術が使われている。また、河村さんによると包丁で物が切れるのは「斜面理論」と「ノコギリ理論」の2つがあり、関兼次刃物はそれぞれの特徴を反映した商品を制作している。前者の理論は、切れ味を出すために反りを加えた日本刀のように、適度な反りによって物が切れるというもの。後者は、ノコギリのような刃を前後することで、物を切るというもの。河村さん率いる職人たちが、日本刀の原理原則をベースに刃物の可能性を追求し、現代のテクノロジーを融合させることで世界中の料理人に愛される包丁を生み出している。
また、新しい商品を開発するヒントは日常生活にあるという。「『なみ』というステーキナイフは、私がステーキが好きなので作りました(笑)。硬い筋もサッと切れて、とろけるような柔らかな肉質の肉もスッと切れるナイフがあったら、ストレスなくステーキが楽しめるなと。開発は大変でしたが、これを完成させたことで技術レベルが上がりました」と河村さん。その言葉に相違なく、「なみ」の巷での評判は極め高く、現在も入手するのに数ヶ月待ちと人気ぶりを博している。そのほかにも、包丁を研ぐ習慣が無い家庭が多いことに着目し、研がなくてもほとんど切れ味が落ちない包丁や柔らかな高級食パンもハード系のパンも切りやすいパン包丁を展開するなど、現代の生活にフィットする商品開発に余年が無い。つくるものは日本刀から包丁に変わったが、いつの時代も頭が切れる匠とよく切れる刃物は重宝されるのだ。