世界で活躍するセラミックアーティスト
“工芸”か“アート”か。作品をどちらのマーケットで売り出すのかは、陶芸家が自立していくために避けては通れない問題だ。乱暴に分類すると、前者では使う事が前提とされた実用性が評価の対象になりがちで、後者では独創性や作品、作家本人の持つ世界観など、これまでになかった目新しさを求められることが多い。それらを両立するのは陶芸家にとっては、なかなかの難題である。岐阜県多治見市にアトリエを構える桑田卓郎さんは、アートの世界でも独特な立ち位置にいるアーティストだ。
「梅華皮(かいらぎ)」や「石爆(いしはぜ)」といった古典的な作品でよく目にする伝統的な技法を用いながら、陶芸の枠に囚われない造形やビビッドな色彩を積極的に取り入れた作品は世界各国のアートフェアでも評価が高い。また、ロエベやトッズとのコラボレーションのみならず、トレーディングミュージアム・コム デ ギャルソンでのインスタレーションを実現するなど、ファッション業界からも注目を集めている。
現在の作風に至ったきっかけの一つは、人間国宝の陶芸家 荒川豊蔵さんによる志野(しの)焼の展示を見たことだった。「ある作品の水差しに釉薬が剥がれている箇所があって、意図的かは分からなかったけど、それがかっこよかったんです。これを僕なりに解釈した、現代の志野をやろうと思いました」と当時は今の作風からは想像もできないような、白磁などのシンプルな作品を作っていた桑田さんはそう振り返る。
工芸ではなくアートの世界へ
また、本来は計量すべき顔料を目分量で調合した結果、思いもよらずポップな色ができたことにも心を揺さぶられた。窯を開けた時のワクワク感を意図的に作りあげようと、再現性のある色彩表現に没頭する。そうして自分の心の声に従うまま、作品を作り続けた結果、日本の現代アートを世界に発信するギャラリストとしてその名を知られる、小山登美夫ギャラリーから声を掛けられたこともあり、アートの世界に身を置くようになった。
しかしその後、桑田さんは“自由”であることの難しさに直面する。ギャラリーからは、とにかく新しく面白い表現を求められたのだ。工芸の世界で型破りとされた作品も、制約の無い自由な場所では同様に評価されない。現実を知ったことで、実用性の概念からさらに遠く離れ、形や色も過激になっていった。
つまり、桑田さんの作品は他者とのコミュニケーションを丁寧に紐解き、新しい価値観を取り入れることで進化を遂げている。それまで自分にはなかった視座を得れば、そこから見えた新しい世界を自分の中に取り込んでいく。自分自身は変わらないが、さまざまな刺激を制作過程の変数として取り入れることで、結果新しいものを生み出しているのだ。それが工芸の世界だけでなく現代美術でも認められ、更にはロエベやコム デ ギャルソンなどファッション業界の最先端にもその存在を知られるようになり、活躍の幅を広げ続けている。
「これまで知らなかった世界の人たちと繋がる事で、自分が想像もできなかった作品を生み出せる。そんなサイクルに身を置いていたい」と語る彼は、驚きに満ちた作品をこれからも作り続けていくのだろう。