神に捧げ、民に愛されるにごり酒「三輪酒造」/岐阜県大垣市

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どぶろくに近いにごり酒を求めて

岐阜県北部、庄川(しょうがわ)流域にある白川郷。日本の原風景とも称される合掌造りの集落が残るこの地域では、五穀豊穰・家内安全・里の平和を祈願する「どぶろく祭り」が、毎年9月の終わりから10月にかけて盛大に行われている。白川村の各地区では、1,300年ほど前からどぶろくが祭礼用の御神酒(おみき)として用いられ、人々に振舞われてきた伝統がある。米と米麴、水を発酵させ、もろみを濾さずに造ったどぶろくは、白く濁った見た目が特徴。クリーミーでコクがあり、野性味のある味わいから多くの人に愛されてきたが、神事以外で飲める機会がなく、販売する事が禁じられていた。その見た目と癖になる味わいに魅了された人々から、白川郷の土産物として、どうにか持って帰れるようにしたいと望む声が多かった。
「先々代がのちの白川村の村長さんから、お土産物として持ち帰れる、どぶろくに近いにごり酒を造ってほしいという依頼を受け、約45年前からにごり酒「白川郷」の製造がはじまりました」と三輪酒造8代目の三輪研二さん。実はにごり酒は、固形分であるもろみを残すため機械が汚れやすく、取り扱いが難しいのだ。白川郷に近い酒蔵でも当時から積極的ににごり酒を造る酒蔵はほとんどなかった。ひょんなご縁で、白川郷から直線距離にして100kmも遠く離れた大垣市にある三輪酒造が、白川郷のどぶろくを再現するにごり酒づくりに一役買う事になった。

試行錯誤を経て、世界に認められる「にごり酒」へ

1837(天保8)年に創業し、清酒造りのノウハウを十二分に持っていた三輪酒造でも例外ではなく、商品化までの道のりは険しかった。清酒の定義の中で、通年販売が認められるお酒を編み出す必要があった。一肌脱ぐと約束したからには途中で投げ出すわけにはいかないと、研究に研究を重ねた結果、白川村のどぶろくに近い味わいのにごり酒をなんとか完成。三輪酒造が醸すにごり酒「白川郷」は当初の目論見通り白川村で評判の土産となった。
ここで想定外だったのは人気が白川村周辺に留まらなかったこと。評判を聞きつけた酒好きが熱烈に「白川郷」を求めるようになり、販路は全国へ拡大。その結果、三輪酒造におけるにごり酒と清酒の製造割合は9:1に至り、にごり酒に特化した蔵元として全国だけでなく海外の酒好きにも知られるようになった。

世界的に珍しい、にごり酒は日本の食文化

“米本来の旨みが凝縮した濃厚なにごり”。数あるにごり酒の中でも「白川郷」が多くの人から支持されている理由はそこに尽きる。その味わいは一口味わった人の記憶に強く、深く、濃厚に刻まれる。だが、にごりの根幹となるもろみは、例えるならロデオの牛のように暴れる。そしてカウボーイの役割の四段仕込みによって上手くコントロールできれば、日本酒らしいキレと米の旨みが見事に融合した酒となるが、一歩間違えれば活性が進み過ぎて爆発することもあるのだ。また、味が変わりやすいため1年を通して安定したにごり酒を造ることも困難だ。だが、三輪酒造は「火入れ」と呼ばれる加熱処理の加減や発酵の度合いなど、複雑な要素を絶妙に組み合わせた独自の製法と杜氏の五感によって、もろみの美味しさを一定水準以上に保つ事ができるようになった。さらに探求は進み、今ではスパークリングや冷凍タイプなどを生み出し、新しいにごり酒を生み出し続けている。
実は、にごり酒やどぶろくのように固形分が入った酒は世界的にも珍しく、日本ならではの食文化。甘味、酸味、雑味、旨みに加え、独特の食感、ポタージュのような舌触り。「白川郷」が持つ独特の“癖”が酒好きの心を鷲掴みにするさまは、どこか清々しい。それは日本酒の原点に立ち返り、ニューオリジナルを創造しているからに違いない。

ACCESS

株式会社 三輪酒造
岐阜県大垣市船町4-48
TEL 0584-78-2201
URL http://www.miwashuzo.co.jp/
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