江戸時代から変わらない伝統製法の“みりん”「白扇酒造」加藤孝明さん/岐阜県川辺町

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日本料理を支える江戸時代から変わらない「みりん」

日本人の食に欠かせない調味料「みりん」。原料は、もち米、米こうじ、米焼酎のみにこだわる。アルコール度数41.5度の米焼酎の中に、蒸したもち米と米こうじを入れ、2、3ヶ月ほど糖化・熟成させる。熟成の過程で、米こうじの酵素がもち米に含まれるデンプンやタンパク質を分解。アミノ酸などの旨み成分が生成され、まろやかな甘みを持ったもろみが作られる。さらに、もろみを手搾りしてみりん粕を除き、約3年間タンクで熟成させてできるのが、江戸時代後期から続く白扇(はくせん)酒造のみりんだ。今も食品添加物や化学調味料は一切使わない。
「うちはずっと作り方を変えずにやってきました。だから江戸時代のみりんがどういうものかと聞かれたら、これですと自信を持って言えます」と笑う白扇酒造代表の加藤孝明さん。昔からの伝統製法を変えないのは理由がある。調味料の味が変わると料理人が困るからだ。特に繊細な風味を大切にする和食の世界ではなおさら。味の土台に芳醇なコクとやわらかな甘みを加えてくれるみりんは、一度使うと手放せなくなると、名だたる料理人たちを虜にしている。

熟成による味の違いを知るため、搾りたてと3年熟成させたものと10年熟成させたものを試飲してみる。
搾りたては濁り酒程度の色味で、まだ味に深みや広がりが少なく、後味がすっきりした甘い焼酎といった感じだが、3年熟成のものはブランデーのような色味になり、抑え目ながらも、横に広がっていく旨味の幅を感じる事ができる。10年熟成になると見た目は黒酢のようで、とろりと濃厚な甘みがあり、紹興酒を思わせるような味わいになっている。用途もそれぞれで、搾りたてだとあっさりしている分、料理の旨味を上げるにはまだ物足りないので白扇酒造では商品化されていない。それに比べて3年熟成は甘みもツヤも丁度良く、料理使いにピッタリ。素材の旨味を壊すことなく上品に華をそえる。10年熟成になると、食前・食後酒にも喜ばれ、ストレートやロックで飲むのもおすすめ、デザートのソースなどにも使われている。

「みりん」は飲み物だった

みりんはもともとお酒の一種で、飲み物だったものが、いつの間にか調味料として多くの人に認知されるようになった。このような例は世界的にも珍しい。かつては昭和40年ごろまで、みりんはやわらかな甘味のあるアルコールとて認知され、田植えの時期などに夏の飲み物として多くの人に愛されていたという。しかし、白扇酒造のみりんも、“みりん風調味料”に押されて「飲み物」としての地位を追われ、一時は売り上げが激減。月日を経て「飲めるみりん」として食い道楽やメディアに再評価されたのは、図らずもみりんの原点に立ち返った流れとも言える。トレンドを追わず長年造り方を変えなかったことで、世間の見立てが変わり、本来の価値が見直されるようになったのだ。

現在、みりんをつくる蔵は全国に約90軒。国内に1,000ほどの蔵がある日本酒と比べると、少ない数字だ。だが、顧客の趣向や市場の変化にさらされながらも、白扇酒造のみりんづくりはこれからも変わらない。
作り方が変わらないよう、工場やロットを大きくすることもない。手間隙と熟成の年月はかけても、ヴィンテージワインの様にプレミア化させるつもりはない。これからの望みも、あくまでふだん使いのものとしてみりんが多くの人に使われ続けること。かつて川湊として栄えた片田舎の小さなつくり手が、今日も静かに日本の食文化を醸している。

ACCESS

白扇酒造株式会社
岐阜県加茂郡川辺町中川辺28
TEL 0120-873-976
URL https://hakusenshuzou.jp/index.html
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