日常生活から感じる美「大阪日本民芸館」
大阪日本民芸館は、吹田市の万博公園内にある。1970年に開催された大阪万博で日本民藝の魅力を伝えるパビリオンとして建設された建物を引き継ぎ、大阪日本民芸館として開館した。初代館長は、日本で初めて「重要無形文化財技術指定(人間国宝)」に工芸技術部門陶芸民芸陶器で認定された、濱田庄司が務めた。
「民藝(民衆的工芸)」とは、華美な装飾を施した観賞用の作品とは一線を画し、名も無き職人の手から生み出された日常の生活道具のこと。1926(大正15)年に“民藝運動の父”と呼ばれる柳宗悦や、濱田庄司、河井寬次郎らが提唱した生活文化運動によって“民藝”や“用の美”という言葉が生まれ、その価値が広く知られるようになった。職人たちの手仕事から生まれる日常の生活道具には、機能性だけでなく美術品に負けない美しさがあるという日本独特の考え方で、当時は斬新なものであったが今では海外でも高く評価されている。カトラリーやキッチンウェアで人気のブランド「SORI YANAGI」と聞けば知っている人も多いのではないだろうか。20世紀に活躍した日本を代表するインダストリアルデザイナーであり、大阪日本民芸館2代目館長でもある柳宗理のデザインによる用の美を追求した製品だ。
生活につながる歴史を知る
一般的な美術館や博物館なら、展示された作品を鑑賞しながら、作家の高い技術や作品にこめられた哲学、時代背景などを知ることを楽しむのだが、この民芸館を巡っていて感じられるのは、ある種の懐かしさ。暮らしの中で培われてきた陶磁器や染織品、木工や絵画など、生活を取り巻く品が展示されているのだから、それもそのはずだ。
芸術ではなく民藝。だからこそのよさがある。古伊万里のそば猪口がたくさん並んだ展示を見ていると、とくだん陶芸に興味のない人間でも目を奪われる。全国各地の編み物や染織品が飾られたコーナーに行くと、地域ごとの違いや無名の作り手の技術に驚くこともある。それは“かつて”、“どこか”にあったものではなく、いまの自分たちの生活と地続きで、だからこそ見ていて楽しい。
楽しいのは展示だけではない。ゆったりとした雰囲気は散歩をするのにも最適だし、ミュージアムショップに行くと、まさに生活と地続きになった陶器やガラス製品が産地ごとにならんでいて、実際に買うこともできる。
また、東京・駒場には、1936年に柳宗悦らが建てた日本民藝館があって、規模は決して大きくないが、それこそ民藝的な素朴な魅力にあふれている。こちらの館長は「無印良品」や「±0」など、現代の生活に密着したプロダクトデザインを手掛ける深澤直人さんが勤められているのも興味深い。東西の民藝館を訪ね、その違いを感じるのもまた一興だろう。