長野の伝統の櫛「お六櫛職人 青柳和邦」/長野県木曽郡

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“みねばり”の木を使うお六櫛。

昔、お六という女性がいた。彼女は頭の病に悩まされていたという。そこで御嶽大権現に願掛けをしたところ、「みねばりという木で使った櫛で、毎日髪を梳けば治るであろう」というお告げを聞いた。

さっそく、お六はみねばりの木で櫛を作り、朝に夕に髪を丁寧に梳いた。するとどうだろう、頭の病はさっていったではないか。この話が知れ渡り、この地で作られるみねばりの櫛は「お六櫛」として、たちまち全国で評判を呼んのだとか。

お六櫛は、約10センチという幅のなかに、何と70~100本もの歯がある。
櫛というと、つげで作られた櫛も有名だが、お六櫛が作られる「みねばり」は、つげよりも堅く、しかも粘りがあるという特徴がある。当然、堅い木から繊細な櫛を作るには、熟練された技が必要だ。

目の荒い櫛が難しい

青柳和邦さんは、その職人のなかの第一人者。18歳ごろから家業のお六櫛製作に従事し、修行を重ねた。
しかし、昭和20年代後半にプラスチック素材の櫛が発売されてからは産業が衰退。この時期には、バスの運転手をされていたこともあるという。あるとき、お父様の呼びかけに答えるかたちで、櫛の製作に立ち返ったのだと話してくださった。それからは、お六櫛製作を積み重ねてきた青柳さん。
その卓越した技術は高い評価を受け、1998年に「信州の名工」、2002年には「現代の名工」に認定されている。これまでに天皇家の御婚儀のために作られる櫛の木地を製作するなど、宮内庁御用達の品を数多く製作しているのだ。

青柳さんは、櫛の歯を作る作業をしながらこう話してくださった。
「難しいのは、粗い櫛なんです。歯を、100本入れるよりも、少ない本数の櫛を作るほうが難しい。悪い部分が目だってしまいますから。」お六櫛は繊細だが大変丈夫な櫛でもある。
青柳さんはひとつひとつ何代にも受け継がれるお六櫛を作り上げているのだ。

ACCESS

お六櫛職人 青柳和邦
長野県木曽郡木祖村薮原618-6
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