1000年前に作られた白磁器の存在感。
筒井廣明さんは、長野は安曇野に窯を構える陶芸家。独立する以前は、1972年から4年間、石川県で九谷焼の修行をし、1976年からは京都で、清水卯一氏、川瀬満之氏という陶芸界の巨匠に師事した。その後、1980年に長野へ戻り窯を開いて、自身の作品を作り続けてきたのだ。
まず、中田が見せていただいたのは、中国で約1000年前に作られた白磁の器だった。筒井さんはこの磁器の存在感に衝撃を受け、それ以来、磁器の世界にのめりこんでしまったのだとはなしてくださった。
筒井さんの白磁の作品は柔らかな光に包まれたような、不思議な魅力を持つことで知られている。また、ほかの作家にはない「線」の魅力も特徴のひとつ。徳利や器は、多くの作家が曲線の美しさで魅せるのに対して、筒井さんの作品では直線が主役になっている。
しかし、その直線は堅さを見せず、逆に全体の柔らかさを浮き立たせるよう。
試行錯誤を続ける
国内外で数々の賞を受けているが、筒井さんはつねに新たなものに挑戦し続けている。たとえば、「釉彩磁面取徳利」という作品。
これは、筒井さんが子どもの保育参観に行った際、壁に飾ってあった子どもたちの絵を見て、「これはおもしろい。この児童画の魅力をどうにか磁器にあらわせないだろうか」と試行錯誤をくり返したもの。自分の表現したい色を出すために、釉薬の色と窯の温度の組み合わせを変えて、何度も何度も試し焼きをしたそうだ。
最終的に仕上がったやわらかな色彩は、大変な技術を要する色なのだ。
工房で拝見させていただいたのは、型に粘土をはめて形を作り出す工程だった。練った粘土を均等に延ばし、薄くスライスして蓮の葉の形をした石膏の型に埋め込んでいく。しっかりと型についたところで、少し乾燥させ、型を外してから内側を削り出す。同様に、器の内側に型をはめて作る方法も、実際に見せていただくことができた。
「伝統的な技法は、歴史を重ねているだけに、素晴らしい方法です。それをまず学んだ上で、さらに新しいものを作っていかなければいけないと、いつも考えています。」そう話す筒井さん。
磁器の持つ魅力は古来中国から日本に渡り、現在でもこうして発展を続けているのだ。