農業を荒廃させたくない
新潟県東蒲原郡阿賀町は、福島県・群馬県から日本海へ続く水量の豊富な「阿賀野川」が流れ、里山には昔ながらの農耕地と集落が残る場所。この日伺った「越後ファーム」は、経営者と生産者がこの地で出会ったことから始まったという。
もともと東京で不動産業を営んでいた近正宏光さんが、日本の農業自給率の低さや、農地の荒廃に危機感を持ち、日本の農地を守るプロジェクトチームを立ち上げて新潟県内で農業をはじめるべく候補地を巡っていた。そのときに、現在の生産責任者、清田正則さんと出会い意気投合した二人は、清田さんの生まれ育った、米作りに最適の奥阿賀の地で、共においしくて安全なお米を作ろうと「越後ファーム」を立ち上げたのだ。
在来品種のコシヒカリ
そんな越後ファームが考えるのは「安心なお米」と「おいしいお米」という、とてもシンプルなこと。
品種はコシヒカリBLを使わず、在来品種のコシヒカリの種もみを発芽させて栽培している。新潟県ではいもち病に強いとされているコシヒカリBLの栽培を推奨しているが越後ファームでは食味の良い従来コシヒカリを栽培。
いもち病にかからない様、手間暇かけ愛情を注ぎ米作りをしているという。苗を育て、田んぼには農薬や化学肥料を一切使わず、水だけをかけ流してお米を育てる自然農法、有機栽培に取り組んでもいる。
冷えてなお甘いご飯
越後ファームのお米の最大の特徴を聞くと、「冷めてもなお甘みの増すお米」という答えが返ってきた。これは奥阿賀という土地の昼夜の寒暖差と、山の清水が作り出す特徴だという。つまり、自然のみが作り出す“甘さ”なのだ。
越後ファームの生産責任者である清田正則さんは、70歳となった現在も毎日田んぼに出る。その口癖は「毎年、農業一年生」「日々勉強」だ。
阿賀町の気候や季節を良く知る清田さんは、数ある田んぼ一枚一枚の状況、特性を把握し田んぼの本来の地力を生かすように、向き合っている。
モミのまま保管する
また、刈り取ってから出荷するまでの管理にも「美味しさ」の理由がある。それは低温モミ保管による“今摺り(いまずり)”提供。昔から農家が自家製お米を保管してきたように、商品の出荷まで低温でモミのまま保管し、出荷に合わせて、モミ摺り、農産物検査、精米を行う。モミのまま保管することにより玄米保管しているお米より水分やうま味をモミが閉じ込めてくれるので鮮度が抜群によい。年間を通して新米同様の鮮度を保つことができる保管方法である。
越後ファームでは自社で農産物検査を行う検査員が常駐している為、モミの保管が可能との事。(農産物検査を行わないと産地、品種を明記することが出来ない。)
この手間を惜しまないことで、家庭に届くお米を少しでも新鮮かつ美味しい状態に保つ工夫を行っている。まさに、自然の力×人の力で、甘くておいしいお米を作り出しているのだ。