新潟の風土が織り込まれた織物 「小千谷縮 樋口隆司」/新潟県小千谷市

新潟の風土が織り込まれた織物
「小千谷縮 樋口隆司」/新潟県小千谷市本町

涼し気な麻の着物

縮織(ちぢみおり)とは、撚りの強い緯糸(よこいと)を用いて織り上げ、ぬるま湯で揉んで縮ませて布全体にしぼ(シワ)を表した織りもののこと。一般に縮(ちぢみ)とも呼ばれるこの織物を使った着物といえば小千谷(おぢや)というほど、小千谷縮(おぢやちぢみ)は古くから人気がある。

特に小千谷縮の逸品とは、麻糸を使った着物や浴衣だ。涼し気な見た目そのままに本当に「涼しい」。しかし、冬には大雪が積もるこの地方でなぜ「夏物」が織られるのか。お話を伺った織物作家の樋口隆司さんはこう話す。

「ひんやりとした空気が細い麻糸には一番合います。それに、湿度が低いと繊維が切れちゃうんです。でもここは雪が2~3メートルも積もるから、家全体がかまくらのなかにあるようなものですよね。だから、温度は0度。湿度は100パーセント。そういう気候なので、麻糸の着物を織るにはピッタリの土地なんです」

先人達は雪深い生活の中に創意工夫を凝らしこの特性に気がついた。まさに気候風土が作り出した織物なのである。雪の上に反物を広げて干す「雪晒し」という行程は季節の風物詩としても知られており、小千谷縮と越後上布は平成21年にユネスコの無形文化遺産にも登録されている。

実用性と優美さを兼ね備える

夏物の浴衣や着物を探していたという中田は、興味津々。さっそく、試着をさせていただきながら、着物の特徴を伺う。とにかく軽い。汗も吸う。風を通す。本当に夏には最適な着物なのだ。実用性だけでなく、樋口さんの作る着物は、優美さも負けていない。袖口にそっと月があしらってあったり、楚々とした美しさがある。数々の賞を受賞し、展覧会にも出品する作品も数多くあるほど。試着をした中田もしきりに「いいですね」とつぶやく。「これ、なかの襦袢の色を変えてみたらもっといいかも。白だけじゃなくて、ダークグレーとか、薄い青とか。着物の色に合わせて」もう自分が小千谷縮を着て歩いている姿も想像できているようだった。

洗濯ができる着物

麻の着物は、お手入れが家庭でできることも大きな特徴だ。「自分で洗濯ができるんですよ。水洗いしてかけておけば、朝には乾いてる。着るとしわができるんだけど、シュッシュって霧吹きで水をかけると、スーっと戻る。テレビに紹介されたときは「元祖形状記憶」って言ってくれましたね」

絹の着物ではもちろん「自分で洗濯」などということはできないのだが、それが出来るとは嬉しいこと。夏にも涼しげな着心地で、素材の質感や色合いを楽しむ着物。小千谷縮が長く人気である背景には、風土と人々の知恵が隠されていた。

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樋口隆司
新潟県小千谷市本町