磁器と陶器を練り合わせる作品
陶芸家 佐々木里知(りいち)さんの魅力はなんといっても、“とどまらない”ことだ。
例えば最近の作品では陶器の粘土の上から磁器の粘土をかぶせて焼くというチャレンジをしている。そうすると、卵のからのように表面にだけ白く層が残り、違った風合いが出るのだそうだ。さらにそこに紋様をつけていくことで、自然に風化したような表情を持たせることもできるのだという。
「自然のなせる業というのももちろん魅力的ですが、作意を残すことも大事だと思っています。見え隠れするストーリーを入れる。例えば紋様を入れるなど何かしらの人為的なことを作品に入れ込んでいくということも作品の魅力のひとつだと思います」と佐々木さんは話す。
佐々木さんは東京芸術大学美術学部における卒業作品の中で、教授会が推薦した優秀作品に対して授与される賞である、サロン・ド・プランタン賞をはじめ、その後の作陶生活のなかでいくつもの賞を受賞している作家だ。それとともに、現在は1991年に山形市に設立した東北芸術工科大学で教鞭をとる教師でもある。
「教わるよりも探す」をモットーにする作家
そこで教えているのは、“探す”いうこと。「いろいろなものを吸収しながら育ってほしい。大学ではモノの本質はきちんと抑えた上で、視野を広げてほしいと思って教えています」。
学生たちにそう教えるように、自分でもその言葉通りの作陶を行っている。
例えば窯。何度も造っては壊し、造っては壊しということを続け、火の流れなど、火そのものの本質を知ろうと試みる。窯は学生といっしょに作ったこともあるという。
佐々木さんがこの道に入ってからすでに30年ほどが経つ。だから周りからは「責任を持て」などと言われることもあるそうだ。しかし佐々木さんは「実績はもちろん必要かもしれないけど、何を考えて、どう試みをしたかが大事だと思うんです。社会的に立派になるより、考えながら蓄積していったほうが、自分が面白い」と話してくれた。いまでもいくつも賞をとり、教える立場にいる現在でも“探す”というキーワードで動いている作家なのだ。
リスクを超えてこそ生まれる作品
モノづくりという仕事は、例えば「こう表現をしたい」、「こういうモノを作りたい」というところから出発し、それを作品に落とし込んでいく仕事だ。ゴールを見定めて、それに向かって作りこんでいく作業ともいえるかもしれない。でも佐々木さんは、こうも言う。
「そのゴールが途中で変わっていくこともある。いい意味での裏切りや不思議なことがあるのもモノづくりのいいところだと思うんです。目標を達成したから満足というだけでなく、製作途中でちょっと裏切られるぐらいがいいんですよ。私にとってそれが焼物なんです」。
たしかに、佐々木さんの作品には裏切りがたくさんあるように思う。それが魅力となって私たちの目に飛び込んでくるのだ。
「陶芸は無理しなくてはダメだと思うんです。リスクはあります。でもそのリスクを超えたところに面白さがある。無茶なところに発見があるんです」。そう語ってくれた佐々木さん。次はどんなリスクを超えて、どんな発見を見せてくれるのか楽しみだ。