奥州市前沢地区のブランド牛「前沢牛」
岩手のブランド牛といえば「前沢牛」。日本でも最高峰の肉質を誇る牛肉だ。岩手県はもともと馬の飼育の歴史が長い場所。牛は農作業のための役牛という役割の方が強く、食肉用の生産規模はそれほど大きくなかった。それが1970年代ごろから肉牛飼育が盛んになり、1980年代には数々の賞をとり全国でも有名になった。もちろん前沢牛として流通するためには組合で定められた規定をクリアしなければならない。それをクリアしてやっと「前沢牛」になれるのだ。
今回は岩手県の奥州市前沢区にある小形牧場に伺った。牛を育てる牛舎とともに、近くには直営の精肉店「前沢牛オガタ駅東店」やレストラン「肉料理おがた」もある。まずは牛たちに会いに行く。
前沢牛は新たな飼料で肉質アップ
牛舎に入ると牛が立ち上がってお出迎え。牛舎には850頭ほどの牛が育てられているそうだ。月に出荷されるのは40~50頭ほど。牛を育てる上で大事なことのひとつが「環境」だと小形守さんはいう。「安心して寝かせてあげること」が大事なのだそうだ。
それとともに大切なのはやはり「えさ」だ。「これかいでみて」と渡された飼料に鼻を近づける。「お酢?」と聞くと「これはお酒。ビールのかすなんです」という。2008年、金融市場の大混乱を招いたリーマンショックのときに飼料の輸入とうもろこしの値段が高騰し、これまでと同じ飼料では立ち行かなくなる危機に直面したという。自分たちで作ることができる飼料を求めて、試行錯誤をはじめたという。地元にあるおから工場、ビール工場などをまわり、飼料米も投入しながら作り出したものが、ビールのかすが入った現在の飼料。栄養価の吸収がよいため少量でもいいのだという。それを食べた牛の肉には甘味が出るのだそうだ。地元の飼料にシフトしたことで肉質もアップしたのだ。
おいしい肉ならタレはいらない
小形牧場で飼育し、よく育った牛は「小形牧場牛」というブランドとして直営店等で販売をしている。調理場では精肉の技術についてお話を聞いた。小形さんは日本の精肉技術は世界一だと胸を張る。日本では、もともとすき焼きの鍋文化として牛肉を取り扱っていたので、薄くスライスするという技術が世界と比べて格段にあがったのだという。それとともに肉質もサシの入った霜降りが好まれるようになった。たしかにあのとろけるような味はたまらない。
ただ、肉を焼肉やステーキとして食べるなら、脂は「ほどほどがいい」と小形さんはいう。その意見には中田も大きくうなずく。さらに、飽きのこないさっぱりした脂をもった肉がおいしいのだという。
「そういう肉はタレなんていらないと思います。シンプルにあつあつを食べてもらう。それが一番おいしい」という。そして、小形牧場で育った牛の肉をいただく。味はいわずもがな。あとはぜひご自身の舌で感じてほしい。