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「酔鯨」に残された名前
鯨が水を飲むように、大量の酒を呑むことを「鯨飲」(げいいん)という。そのうえさらに鯨が酔っ払ってしまえば、「酔鯨酒造」になる。「酔鯨」という言葉は、もともと幕末の土佐藩主・山内容堂の雅号「鯨海酔候」からきている。“鯨のいる海の酔っぱらい殿様”という意味だ。そんな名前を自らつけてしまうぐらいだから、容堂公は酒をこよなく愛したのだろう。
容堂公が残した詩にも、やはり酒に関するものが多い。なかでも有名なのが、大名の孤独と郷愁を詠ったといわれる「二州楼閣に飲す」。
始まりはこうだ。
昨は橋南に酔ひ 今日は橋北に酔ふ
酒あり飲むべし 吾酔ふべし
清流の恵みを酒に込める
それほどに酒を愛した容堂公の名を冠した清酒「酔鯨」は、淡麗辛口で一本芯の通った味。
鏡川源流域の高知市土佐山(旧土佐山村)の水を使った美酒である。
鏡川は、坂本龍馬も幼い頃に泳ぎ汗を流したとして知られ、安岡章太郎の小説「鏡川」の舞台でもある。土佐藩5代目藩主・山内豊房が“我が影を映すこと鏡の如し”とのことから「鏡川」と名づけたという逸話も残るように、その水は清らかで、古くから酒造りに適した水とされてきた。
歴史と自然に思いを馳せられる土佐清酒、「酔鯨」。鯨のようにあおるのもよし、味をしっかりとかみしめるのもよし。容堂公のように、とにかく酔ってみるべし。