直島の丘に造られた美術館
瀬戸内海に浮かぶ直島の南側、ベネッセハウスの向かいに「地中美術館」はある。地中美術館――こう耳にするとなにやら不思議な響きがする名前だが、その建築を見ればすぐさま納得できる。そう、ここはその名のとおり、すべての施設が地中に潜っているのだ。景観に影響を与えないため、地上に出ている部分は最小限にとどめ、天井にしつらえた明り取りの窓から自然光を入れている。設計は安藤忠雄氏。そこに、クロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルの3人の作品だけが、建築・空間と一体となって体感できるように展示されている。
地下でありながら採光があるので、自然光のなかで作品を見ることができるのも魅力の1つ。自然光のため1日のうちでも時間によって作品の見え方が異なり、まさに空間そのものがアートとして機能しているという稀有な美術館なのだ。
ゆったりと館内を巡る
美術館に行くと、まず見えてくるのがチケットセンター。そこから館までの約70mは、日本を愛した画家、モネの好んだ植物を配した「モネの庭」が続く。モネの描いた自然の美しさを、ここで実地に体験できるという心憎い配慮だ。
「モネの庭」をすぎ、さらに空に向かって四角く切り取られた空間や斜めに傾いたコンクリートの壁などをすぎて地中深くに降りると、厳かな雰囲気のなかウォルター・デ・マリアの作品が登場する。日の出から日没まで、表情が刻々と変わるという黒い球体。しばし作品を眺めて次に進むと、今度はジェームズ・タレルの光をモチーフにした「オープン・スカイ」「オープン・フィールド」などがお目見え。空と壁が一体化するような、遠近感のない空間が無限に広がるような、不思議な感覚。この2人の作品は、建築と同時進行で制作されたというから、空間が最大限に生かされているのも納得だ。
最後に登場するのが、モネ室である。モネの最晩年の作品「睡蓮」をはじめとする5点が、白い大理石を敷き詰めた空間に静かに展示されている。この美術館では、光、水、植物、鳥の鳴き声などまでが、アートを引き立てる脇役として活かされている。まさに五感でアートを体感できる美術館なのだ。