燃えやすく消えにくい菊炭「池田炭」
木炭というと、すぐに思いつくのが備長炭だが、その備長炭とともに最高級といわれているのが「池田炭」の名で知られている菊炭である。切り口が菊の花のように割れているところから、菊炭という。
その歴史は古く、1000年ごろには、銀の精錬用に焼かれていたといわれている。燃えやすく消えにくい、そして灰までが良質だということで、のちには精錬用のみならず広く行き渡るようになった。
茶人に愛でられた池田炭の魅力
灰が良質とはどういうことか?
池田炭は、燃えつきたあとにも白く美しい姿で灰が残るのである。この美しさが茶人に愛でられ、茶の湯の席でも重宝された。池田市にある久安寺(きゅうあんじ)では、1145年から1870年まで宮中御茶用として池田炭を長く献上していたという。ちなみに久安寺は、豊臣秀吉が1595年に観月の茶会を催したことで知られる由緒正しいお寺である。
こうして江戸期までは大いにもてはやされ、現在でも茶席ではなくてはならない炭ではあるが、いまはもう菊炭を扱う店は数軒しかない。電気やガスが普及するにつれ、次第に需要が減っていったためである。焼くことのできる職人も5人ほどしかいないという。
500年前から変わらぬ窯の構造
その職人さんの1人、小谷義隆さんの工房で、炭焼きを見せていただいた。小谷さんのところで使っている窯は23年もの。なかには100年も昔の窯を今も使っている工房もあるそうで、その構造は500年前から基本的には変化していないのだそう。窯に使われている石や土も、すべてこの地のものが使われているという。
小谷さんは、「皮がぴったりくっついて、断面の模様がきれいに出たのがよい炭」だと語る。その言葉の通り、切り口の美しさからインテリアとして購入する人も多いのだとか。古き茶人が愛した池田炭。その美しさはいまでも人を惹きつける。