NIHONMONO「にほん」の「ほんもの」を巡る旅マガジン

創業1487年、室町時代から酒を造る「飛良泉本舗」

創業1487年、室町時代から酒を造る「飛良泉本舗」

秋田県南部の日本海沿いに位置するにかほ市は、霊峰・鳥海山(ちょうかいさん)を望む自然豊かな北国の町だ。「飛良泉本舗(ひらいずみほんぽ)」の創業は1487年(長享元年)、室町時代にまでさかのぼる。全国で3番目に古く、東北では最古の酒蔵だ。
飛良泉本舗の特徴は、伝統の山廃仕込みにある。山廃仕込みは、時間をかけて酵母を繁殖させるため、強い酵母菌によって発酵を行うことが可能になる。そのためか、飛良泉本舗の酒には「酸味が強く骨太」というイメージがある。こだわりの山廃仕込みによる骨太な酒。飲みごたえのしっかりした、いわば酒好きのための日本酒ともいえる。
「そうしたお酒も、もちろん悪くはないのですが、これからの時代、女性や若い人たちにも気軽に日本酒を楽しんでもらいたい。そう思った時、うちの蔵にももっと飲みやすいお酒が必要ではと考えました。」と話すのは、専務であり27代目の当主となる齋藤雅昭さんだ。

都内の放送事業会社の営業マンを7年程経験したのち、2018年に、にかほ市へ戻ってきた齋藤さんは、異業種で培ってきた経験を活かし、従来の山廃仕込みの魅力を理解しつつも、現代的な酒質を模索しているところだ。
「私の妻はあまり日本酒を飲まないのですが、そうした女性でも味わえるような酒を造りたい」と、目下、醸造方法の変革に取り組んでいる。
ただし、飛良泉本舗は普通の酒蔵ではない。500年以上の伝統のある酒蔵で、すでに多くの愛好家からの評価を得ているだけに、新たな味造りへのアプローチにはなかなか苦労が多い。まして齋藤さんはこれまで酒造りを生活の一部としては見てきたものの、作り手として関わるのが初めて、知識も経験も無いに等しい状態での新たな挑戦は、並大抵のことではなかった。それでも「次世代に届けたいお酒」への熱い想いが周囲を動かし、杜氏との二人三脚で新たな酒造りをスタートさせたのだった。

蔵の新たな方向性のなかで醸造された酒が、2019年に初めてリリースされた「HITEN HIRAIZUMI」シリーズだ。齋藤さん自らが選抜したオリジナル酵母を使い、穏やかな香りと爽やかな酸味を引き出した「雛HINA」、秋田県で生まれた吟醸用酵母を使い、華やかな香りに仕立てた飲み口の良い「鸙HIBARI」、白麹とNo.77酵母(リンゴ酸)、さらに山廃酛(乳酸)を組み合わせ、変化する酸味を楽しめる個性的な「鵠HAKUCHO」の3種だ。いずれも山廃仕込みでありながら、過度に骨太にならず、新たな風味を目指している。「普段、日本酒を飲まない女性や若い世代の人たちを意識して造りました」と齋藤さん。同シリーズには、「金KONJIKI」「銀SHIROGANE」という2つの純米大吟醸も用意されている。これから、市場にどのように受け入れられていくのか興味深いラインナップである。

長い歴史のある蔵元の良さを踏襲しながら、次世代の酒を造る。齋藤さんの新たな取り組みはまだ始まったばかり。伝統の山廃仕込みのなかで工夫を重ねて醸造するのか、あるいはまったく別のアプローチを試みるのか。いずれにせよ、東北でもっとも長い歴史を持つ酒蔵の、今後の酒造りが楽しみである。

ACCESS

株式会社飛良泉本舗
秋田県にかほ市平沢中町59
TEL 0184-35-2031
URL https://www.hiraizumi.co.jp/