土も金属も流し込み、独自のガラス作品に。ガラス作家・熊谷峻さん

土も金属も流し込み、独自のガラス作品に。ガラス作家・熊谷峻さん

秋田市を拠点にガラス作家として活動する熊谷峻さん。独特な表情を持つ作品に魅せられ、国内外での個展を開き、その存在感を増している作家である。熊谷さんの自宅兼工房を訪ねると、四季の色彩を映すかのような美しい庭に囲まれた工房に、熊谷さんのガラス作品の数々が並んでいた。

熊谷さんは秋田県に生まれ育ち、美術大学でガラス工芸を学んだあと、ガラスの街富山へ移りさらに富山ガラス工房に所属しながらガラスの基礎を固めた。そこで4年ほど活動したのち、同じくガラス作家の妻・境田亜希さんの妊娠を機に、秋田へと帰郷することを決めた。
熊谷さんのガラス作品はとても珍しい。一見それがガラスでできているかも分からないような形状、質感、色合いを放っている。古代エジプトの遺跡から発掘されたかのような神秘的な雰囲気を醸し、パート・ド・ヴェールの技法を用いたようにも見え、引き込まれるような不思議な世界観が漂っているのだ。
「ガラス作家は、きれいなガラスへ向かう人が多い。でも私は、透明感や美しさより、ガラスに入った不純物による変化やムラに興味が湧く。そういうものになぜか惹かれます」と熊谷さんは話す。

熊谷さんの作品作りの基本は鋳造技法によるものだ。そこに陶芸や中金の技術を応用していることが特徴である。誰もまだ見たことにない作品を作りたいとこの独創的な技法へとたどり着いたのだそうだ。
まず石膏の型を作り、造形用のロウで作品をイメージしながら成形する。あとは小さな箱に入れてまわりに石膏を流し込めば、型が完成する。出来上がった石膏の型に液体状の熱いガラスを流し込み、冷やし固めて成形していく。使用する原料は友人のガラス作家が廃材にするものを譲り受けたものなどを使い、そこに土や金属などの粉を混ぜ合わせていく。もともとついていたガラスの色彩が土や金属とともに1000度に熱せられる為、性質の違うそれぞれの原料が複雑な色や質感を生み出し、出来上がった作品の唯一無二の表情を創り出す。

1週間以上冷やしたあと、石膏を割り削ってガラスを取り出す。作品を型に入れてから時間が経っていることもあり、どんなものを作ったか、どんな姿になっているか、開けて見るまで自分でも忘れてしまっていることが多いのだそうだ。不純物が混ざっている事で予想もしない色ムラができていたり、汚れているかのように見える表情が現れていると、それに心が躍るのだという。ガラス作品について語る時、熊谷さんの笑顔は大きくなる。「なにより石膏を割って、作品を取り出す時が純粋に一番おもしろい」。そう言いながら、熊谷さんは1つの石膏を木槌で割り始めた。
慎重に木槌で石膏を叩いていくと、やがて中から仏様のような人型のガラス作品が姿を現した。少しザラついた鈍色の質感や色だれ、ゆがんだフォルム、たしかに透明なガラスにはない、異形ならではの魅力がそこにはあった。
「小さな作品に関しては、ここ数年でずいぶんと慣れた。今後は大きな作品にも取り組んでみたいと思っています」と熊谷さん。鋳造技法による制作を究め、熊谷さんならではの作品づくりに今後も挑んでいく。

ACCESS

熊谷峻
秋田県
URL https://kkumashunn.wixsite.com/shunkumagai