まるごと有機の町「綾町」

まるごと有機の町 「綾町」

町ぐるみの取り組み

「おはようございま~す」元気な声で次々と野菜を持って人が来る。
宮崎県・綾町にある『綾 手づくりほんものセンター』は、有機農作物の直売場。町独自の安全基準に基づいて、金・銀・銅のランクがつけられた農作物を販売している。野菜の納品は、地元の農家の人たちが直接運び、好きな棚に野菜を並べる。値段を決めるのも自分次第。ちょっとしたおかずを交換する人などもいて、納品しに来る人たちにとってもちょっとした交流所になっている。
宮崎県のほぼ中央に位置し、九州中央山地に連なる綾北川・綾南川に囲まれた綾町は、日本有数の照葉樹林帯。昭和57年に九州中央山地国定公園に指定され、鳥獣や魚類の棲息・植物の生育地としても有数の地域だ。そして、全国に先駆けて町ぐるみで有機農業に取り組んでいることでも有名で、他の自治体の見本となっている。町ぐるみの取り組み、というところに惹かれ、綾町を訪れてみた。

なぜ“有機”を選ばない・選べないのか。

ここでは、町内の農家に対して適切な土づくりのアドバイスを行う機関を設けていて、健康な土作りや農地についての基準・作物栽培管理基準を独自に設けている。有機農法では、土壌の状況が作物の味・かたち・色・ツヤすべてに出る。土作りは重要で、地中の微生物の生態系を大切にしながら、大地の持つ本来の力を引き出し作物の成長に最適な土壌環境を作り出すという考えのもと、堆肥生産にも力が入っている。
綾方式と呼ばれる自給肥料供給施設の建設や、町内の生ごみを堆肥循環、これが適切な土壌づくりだけでなく、廃棄物の削減にもつながっている。CO2や水質汚濁負荷、有機系廃棄物、化学系農薬使用の削減といった効果をみせ、環境負荷の低減効果が明らかになっているそうだ。

味や食品の安全性に注目が高まる現代、ではなぜすべての農家が有機を選ばない・選べないのか。有機農業取り組む農家の人たちからも話しを聞いた。すべての農家が理想とする農業を実現し、十分に生計を立てていくことができているかというと、ここ綾町でもそうとは言い切れない。有機農業を始めて10年ほど経つ農家の方でも、収入が安定せず、副業が必要な場合があるという。

常に先を見据えて

有機農業では雑草や虫が多く、手作業でとる人や、合鴨農法を取り入れている人もいるが、どちらにしても労力や手間が必要なので、農地を拡大することが難しく、収穫量が限られてしまう。また、綾町でも他の地域と同じく後継者問題もある。
県全体の農業後継者団体もあり、積極的な活動をしているが、それでも今の高齢者たちが辞めてしまうと、労力がとても足りないという。それに販路の問題もある。味で勝負ができる販路を拡大していかなければならない。先述のような直売所はあるが、顧客が増えるためには、その存在を、そこで扱う商品の良さを伝えていかなければいけないというのが課題となっている。

有機農法が注目されるという第1段階から、有機や無農薬というだけではないそれ以上のものが必要となる段階を迎えている。課題や苦労も多いが、正しいことをやっているという誇りを話してくれた綾町の人々の顔はみな充実に溢れ、先を見据えていた。10年先、20年先の綾町がどうなっているのかが楽しみだ。

ACCESS

綾手づくりほんものセンター
宮崎県東諸県郡綾町南俣515
URL http://www.aya-honmono.jp/