美しく心地よい福祉食器「陶芸家 大沢和義」

美しく心地よい福祉食器
「陶芸家 大沢和義」

作り手、買い手、使い手が丸くつながる器

介護食器、福祉食器と聞くと、どんな器を思い浮かべるだろうか?プラスチック製のコップや器、ステンレス製のスプーン。福祉施設だけではなく、在宅介護など様々な場面で福祉食器が使用されている。
「Te Maru てまる」-そう名付けられた器もまた、福祉食器として生まれた。工房を訪ねたのは、磁器の器を作る陶芸家の大沢和義さん。2008年から、大沢さんと岩手県工業技術センターが共同で企画し、岩手県の工芸家たちの手仕事による介護食器「てまる」を制作しているのだ。
磁器、陶器、木の器、木のスプーン。その最大の特徴は、介護用の食器でありながら現代の暮らしに馴染む美しさがある“普通の食器”だということ。お年寄りや障害を持った方、そして子供にも使いやすように計算されているが、実にシンプルな器なのだ。てまるの器について大沢和義さんはこう話す。
「気づけば、介護用だからといって最初から変形させることばかり考えてモノづくりが行われているように思えて、それは無理があると思ったんですね。その視点を見直すきっかけにしたいと思いました」こうした視点から生まれたデザインと食器の美しさが評価され、てまるの器は2011年にグッドデザイン賞を受賞した。

磁器だからできる形

大沢さんの作る「てまるの磁器」には触ってみないと気づかないほど小さな工夫が施されている。それは口の内側に鋭角な“返し”を付けること。返しがあることで内容物が絶妙にひっかかるため、器の中のお粥をスプーンできれいにすくうことができるのだ。この返しは陶器や木の器にも付けられているが、磁器はより繊細な使い心地を追求しているのだという。

形のヒントになったのは、禅宗の僧が托鉢の際に持ち歩く「応量器」や、李朝時代の平べったく側面に立ち上がりのある広い器だった。
「使いやすさを突き詰めていくと古典に行き着いたんです。さじで食べる器なら返しがついていたはず、基本は同じだと思いました。でもね、応量器をそのまま作っても現代には合わない」こうして使いやすさに加えて、食事を美味しくする器本来の美しさも備わった形が生まれたのだ。
「需要はありますか?」と中田。
「あります。展示会をやってからは、障害を持つ方やその家族からもお問い合わせをたくさんもらいました。」今後は、持ちやすく飲みやすい湯呑茶碗の制作にも取り組みたいという。


さわってみてわかる。

大沢さんのろくろ作業を見学する。
「陶芸をはじめてすぐに、あぁ磁器がいいなと思いました。手作りで量産することができる腕を身につけたいと思いましたね。」
大沢さんは大学を中退して専門学校で陶芸を学んだ後に、磁器の産地である愛媛県砥部町に移り、修行を積んだ。
「磁器は土がすぐに手にくっついて難しいです…」そう言いながら、中田もろくろでの陶芸を体験させてもらう。
「土を触れるときは、手の点でふれるようにするとうまくいきますよ。そっと触れるだけです」アドバイスをもらいながら、湯呑茶碗をひとつ作る。
無機質な印象がある工場生産の磁器ではなく、ひとつひとつ手作りの磁器を作り続ける大沢さん。現代の暮らしを見つめ、器の可能性に取り組んでいる。

ACCESS

陶來 大沢和義
岩手県岩手郡滝沢村