麻のような涼しげな織物
福島県指定重要無形文化財となっている”からむし織”。イラクサ科の宿根草である、からむしから繊維をとり、糸を紡ぎ出して、それを使った織物がからむし織だ。一見、麻織物のようにも見えるが、麻よりもハリがあるのが特徴だ。ざっくりと織った小物から、着物の反物まで幅広い織物がある。
からむしを原料とする上布の産地としては、宮古や石垣などが有名だが、本州で唯一からむし原料の産地となっているのが、ここ昭和村だ。約600年以上前から厳しい管理のもとに代々受け継がれてきたという。
からむし織に魅せられた理由
今回は昭和村にある工房に伺い、からむし織をされている齋藤環さんにお話を伺った。ところで齋藤さんは実は昭和村のご出身ではない。実は、昭和村役場では毎年4人ずつ、からむし織の体験生というような形で移住者を募っている。そのうちのひとりとして齋藤さんは昭和村にやってきたのだ。初めてこの地を訪れたときに雪景色を見て感動したことを覚えているという。
「なぜ、からむし織をしようと思ったんですか?」という中田の問いに、「特別な理由はないんですけどね」と笑いながら齋藤さんはこう答えてくれた。
「からむしの栽培から糸紡ぎ、織り、最初から最後まで全て自らの手で作り出すことができる。そこに一番の魅力を感じて、やってみたいな、と思いました。そして、昔から受け継がれてきたからむしは、ずっと村の人々の生活の中にある。今ではそんなからむしと村での生活に魅力を感じています。」
もっとも時間のかかる糸作り
齋藤さんはからむし織の制作を栽培、刈り取り、糸作りから織りまでのすべてを一貫して行う。その全行程のなかで、実際に機織り機の前に座る時間よりもずっと時間がかかるのが、からむしの糸作りだという。
今回は糸を紡ぐ作業も見学させていただいた。乾燥させたからむしの繊維を、水に浸し柔らかくし、それを一本一本爪で裂き、指で撚りをかけながら繋いでいく。
「着物に使う糸と、小物等に使う糸は太さが違うんです。細い糸を作るのが難しくて、時間もすごくかかります」その技術は、村のおばあちゃんたちからひとつひとつ教わったものだ。
からむし織の伝統を繋ぐ
現在でも昭和村役場では毎年からむし織り体験生を募っている。春から秋には畑に出て、その間に糸を紡ぐ。冬にはその糸でからむし織を織る。研修生の中には齋藤さんのように昭和村に残り、からむし織の作業に携わる人も多いという。その地に息づく伝統が人を呼び寄せるのだ。