亜熱帯気候の沖縄だからこそ生まれた味。「オリオンビール株式会社」/沖縄県名護市

“沖縄のビール”として誰もがその名を知るオリオンビール。やんばると呼ばれる沖縄本島北部の玄関口、名護の町でつくられているその味わいは、看板商品の「オリオン ザ・ドラフト」を筆頭に、スッキリとした飲みやすさが特徴だ。沖縄ならではの気候や風土、人に合わせた“飲みたくなる味”を追求し続けるオリオンビールのこだわりを、名護工場長の樽岡誠(たるおかまこと)さんに伺った。

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地元のビールとして愛されて

県民のビールとして愛され、沖縄県内最大のシェアを誇るオリオンビール。その製造工場は、創業時からずっと変わらず名護にある。「創業当時、ビール製造に適した地下水が豊富であるなど、さまざまな面を検討し、名護の地に工場が作られました。名護では昔から、“地元のビール”として親しまれています」と、樽岡さん。名護工場は現在、工場ラインの一部が見学できる「オリオンハッピーパック」として人気の観光スポットにもなっている。

オリオンビールの歩み

オリオンビールの創業は1957年。戦後の閉塞感が漂うアメリカ統治下の沖縄で、「島の若者たちに“やればできる”ことを示したい」と、政治家で実業家の具志堅宗精(ぐしけんそうせい)氏が、亜熱帯気候では不可能と言われていたビールの製造に乗り出した。創業当時の社名は「沖縄ビール株式会社」。南国でのビール醸造の鍵となる冷蔵、冷却設備の導入に1年半をかけ、東京農大から醸造技術者も呼んで生み出されたビールは、1957年11月、大衆に親しみやすく、呼びやすい名称を懸賞付きの新聞広告で広く公募し、集まった2500の候補の中から「オリオンビール」と名付けられた。オリオンビールは1959年5月に一斉発売。この年、社名も「オリオンビール株式会社」に変更された。

ドラフトの誕生

当時の沖縄では、ビールは家庭ではなく、居酒屋などの飲食店で飲む瓶ビールや樽ビールが主流だった。そこで、1960年に誕生したドラフト(生ビール)は「地元でつくった出来立てのビールをすぐ届ける」という店頭での新鮮さを売りにし、これが県民に浸透。1973年に発売された缶ビールも生ビールであることにこだわり、「ドラフト」の商品名が誕生した。「生ビールというのは熱処理をしていないビールです。熱処理をしないことでホップや麦芽のほのかな香りが残り、新鮮でスッキリとした軽い飲み口になります」と、樽岡さん。現在でも、オリオンビールが製造しているビールはすべて熱処理をしていない生ビールだ。

「スッキリ」とした飲みやすさが伝統

オリオンビールの特徴について、樽岡さんは「弊社のビールはバラエティに富んでいますが、どんなタイプのビールであっても、沖縄の人が飲んだ時に感じる“スッキリ感”を大切にしています。沖縄の人が飲んで美味しいと感じるもの、ビーチパーティーのような場で“もう一本!”と次々に飲んでいただけるような喉越しの良さが、オリオンビールの伝統なんです」と話す。創業当時の沖縄では、バドワイザーやミラーなど、苦味の少なくスッキリとした後味のアメリカ産ビールが多く輸入されていたため、創業当時のビールが売れ悩んでいた原因のひとつには、ドイツビールに習った苦味の強さもあったかもしれないという。沖縄の気候や生活環境に合ったスッキリとした味わい、爽やかな喉ごしだからこそ、1960年に生まれた「オリオン ザ・ドラフト」は長く愛され続けているのだろう。

やんばるの水仕込み

ビールの味に水は大きく影響するもの。オリオンビールでは、やんばるの森に囲まれたダムから引いた水を仕込みに使用している。石灰岩層の多い沖縄本島の水は硬水であることが多いが、やんばるの水は軟水に近い。「私たちは“水を磨く”と言いますが、引いた水をろ過した後に、人間の五感で“見る”、“聞く”、“味わう”、“嗅ぐ”、“触れる”ことによって品質をチェックする官能検査にかけます。そうすることでビールづくりに合う、味も匂いもしない非常に良い仕込み水に仕上げています」と樽岡さんは話す。

製造工程のこだわり

「オリオン ザ・ドラフト」のメイン原材料は麦芽(モルト)とホップ。麦芽を仕込槽で糖化させてできた麦汁を、麦芽の穀皮を用いてろ過することで、糖化工程で発生する残渣を取り除き、“クリアな麦汁”を抽出する。次の煮沸の段階で投入するホップは、理想の苦味や香りを付与するために投入する量やタイミングを加減する。そして、ビール酵母と共にタンク内で発酵、熟成に進んだ後に、発酵由来の自然な炭酸を残すことできめ細やかな泡立ちを引き出す。このようにして、「オリオン ザ・ドラフト」独特の喉越しや後味の良さが生み出されている。

新しいビールへの挑戦

現在、オリオンビールの定番商品は約8種類。期間限定の商品も含めると年間で約15種類の商品を製造しており、その中には発泡酒やノンアルコール飲料も含まれている。「沖縄でも、若い世代のビールの消費量が少しずつ減り続けているのは事実です。アルコールをあまり好まない方も増えている中で、ノンアルコールや低アルコールの商品を出してビールの味に触れていただく機会を増やすなど、飲んでいただく努力をしなければなりません」と樽岡さん。

ビールの製造については、2018年に酒税法が変わってから使用可能な副原料が増え、昔は受け入れられなかった苦味や香りの強いビールも受け入れられるようになるなど、「幅は広がっている」という。オリオンビールが現在販売している商品をいくつか紹介しよう。

オリオン ザ・プレミアム

2022年に発売された「オリオン ザ・プレミアム」は、その名の通りの高付加価値ラインで、「オリオン ザ・ドラフト」に次ぐヒット商品となっている。沖縄に自生する植物から採取した3000ものサンプルから採取した作った新たなビール酵母「沖縄酵母OB-001」を用いており、喉ごしの良さがありながらも深いコクと苦さ控えめのまろやかな味わい、そして日本酒やワインのような芳醇な香りが特徴だ。

75BEERシリーズ

オリオンビール発祥の地である名護をイメージしたクラフトビールが「75BEER(なごビール)」。地元の名護十字路商店連合会と共に名護限定のビールを作る「75BEER PROJECT」を発足。沖縄産シークヮーサーの香りをイメージしたホップ香を持ち、名護湾に沈む夕日をイメージした赤銅色の「クラフトラガー」が誕生した。

2018年10月に名護市内限定でテスト販売をしたところ、わずか4日間で瓶23,000本が完売したことを受けて、2019年12月、オリオン初のプレミアムクラフトビールとして発売された。

オリオン ティーダレッド、オリオン コーラルブルー

2024年春に限定発売された「オリオン ティーダレッド」と「オリオン コーラルブルー」は、天然色素を使ったカラービール(発泡酒)。「オリオン ティーダレッド」は、沖縄の夏の太陽をイメージしたハイビスカスエキスの赤を、「オリオン コーラルブルー」は、沖縄の海をイメージしたバタフライピー由来エキスの青で色付けされており、2つの商品をグラスに注いでブレンドすると、カラーが紫に変わるアレンジも楽しめる。

沖縄産ビールの未来へ

「地元商店街とのタッグから生まれた弊社初のクラフトビールや、“黄金色のものがビールという、固定観念を崩すようなビールを作りたい”という発想から生まれたカラービールなど、2024年はチャレンジの年となりました。これからも、それぞれの個性を楽しむような多種多様なビールのあり方、楽しみ方を提案していきたいと考えています」と、樽岡さん。

新商品の開発と並行して、2022年からは、通常の製造設備の約100分の1規模の小型醸造設備を使った少量生産のクラフトビール造りにも取り組み好評を得ているという。ちなみに、このクラフトビールはオリオンビール直営のホテルで飲むことができる。

また、沖縄を訪れた外国人観光客を通じて海外にもファン層を増やしており、現在、台湾、香港などのアジア圏を筆頭に、アメリカ、オーストラリア、ブラジルなど、世界16の国と地域へ、商品の輸出を行なっている。

オリオンビールは、地場一筋で築き上げてきた伝統を踏襲しながらも、ビール離れが著しいと言われる次世代や、新たな市場として世界にも目をくまなく向け、これからも南国・沖縄らしいおおらかなアイデアで「メイド・イン・オキナワ」のビールの可能性に挑戦し続けていく。

ACCESS

オリオンビール株式会社(工場見学はオリオンハッピーパーク)
沖縄県名護市東江2-2-1
TEL 非公開
URL https://www.orionbeer.co.jp/happypark
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