今や沖縄を代表する特産品となった南国フルーツの王様・マンゴー。沖縄本島北部の今帰仁村は、国内マンゴー生産発祥の地である。今から40年前「今帰仁を日本一のフルーツの村にしよう」と一念発起したマンゴー農家の宮城康吉さん。今も変わらず、マンゴー栽培に熱い情熱を注いでいる。
マンゴー栽培発祥の地・今帰仁村
沖縄本島北部の今帰仁村(なきじんそん)。海と森、豊かな大自然に恵まれた村は、古くからサトウキビやスイカといった農業生産が盛んだ。
そんな今帰仁村で、40年に渡ってマンゴー栽培を続けてきたマンゴー農園「あけのフルーツ」。会長の宮城 康吉(みやぎ やすきち)さんは、日本で初めてマンゴー栽培を始めた第一人者だ。
今では全国生産量1位を誇る沖縄県のマンゴー。
芳醇な香りと濃厚な甘さ、口に入れるととろけるようななめらかさが人気の理由で、ここ10年ほどで、贈答品をはじめ高級フルーツとしての認知度を高めている。
今帰仁村のマンゴーはふるさと納税の返礼品としても人気が高く、村を代表する特産品となっている。
今から40年前、東南アジアとの交流でマンゴーを知った康吉さん。
日照時間が長く、熱帯果樹が育ちやすい南国ならではの環境に着目し「今帰仁村を日本一のフルーツ村にしよう」と思い立った。ドラゴンフルーツ、アテモヤ、パッションフルーツなど数ある熱帯果樹を庭先で試験的に栽培し、高級フルーツとしての付加価値の高さが最も感じられた“マンゴー”のハウス栽培をスタートしたのが始まりだ。そこから本島南部の豊見城村や宮古島など沖縄県内に栽培の輪が広がり、やがて宮崎県など本土へと広まっていった。
常に試行錯誤のマンゴー栽培
約3000坪の広大な敷地を誇るマンゴーハウスは、本部(もとぶ)半島の羽地(はねじ)内海を見渡す高台の立地にある。古宇利(こうり)大橋をはじめ、良く晴れた日は伊是名(いぜな)島や伊平屋(いへや)島といった離島も見える。
「おいしいマンゴーを作るには、糖度を上げるための様々な工夫が必須」と話す康吉さん。
灼熱の沖縄ではビニールハウス内の温度が上昇し、37℃以上になると“高温障害”が出てしまう。そうなると、マンゴーの木自体が果実にため込んだ養分を吸い取り成長に使ってしまうことで糖度が落ち、熟しない内に実が落ちてしまうことも。
そのため高温対策は、糖度をのせる上で大事な作業である。ビニールハウスの上にブルーネットをかけて遮光するなど、試行錯誤を繰り返しながらマンゴーに向き合う日々だ。
マンゴーの収穫時期は6月中旬~7月末の約1か月半。あけのフルーツでは毎年約4万個のマンゴーを出荷する。
収穫まで手間暇がかかるのがマンゴー栽培。マンゴーがきれいに色付くよう、日光を十分に当てるために実を高い位置で紐で固定する「実吊り」や、直射日光による日除けと害虫対策のため、実ひとつひとつに手作業で行う「袋掛け」作業。
天敵の害虫対策としては、農薬をまかずにこまめに手で防除。新芽を下にまき、虫を引き付けて蔓延しないように気を配る。
おいしい果実に仕上げるには土壌改良も欠かせない。有機系の土を補充し、サトウキビの絞り粕・バガスを撒いて、養分の高いフワフワの土をキープしている。
品種によって魅力の異なるマンゴーの味わい
ところで、マンゴーには多数の品種があることをご存知だろうか?沖縄県民でも、マンゴーの品種が複数あることを知っている人は少ない。
日本で、国産マンゴーとして生産されているのはアーウィン種の「アップルマンゴー」で、そのシェアは90%以上を誇る。アップルマンゴーは、濃厚な甘味とほどよい酸味、独特のねっとりとした食感、熟すと真っ赤に色付く実の美しさも相まって人気の高い品種だ。
あけのフルーツも同様にアップルマンゴーの栽培が9割のシェアを占める中、新たな品種の研究・開発を兼ねて25種ものマンゴーの品種を栽培。
「金蜜(きんみつ)」という黄色い実の品種や、「キーツ」と呼ばれるグリーンの実の品種の栽培にも積極的に取り組んでいる。
こちらは樹齢36年となる「金蜜」の原木。康吉さんが県内で初めて持ち込んだ記念の木だ。無数に伸びる枝には未だにうま味のある実を付け続け、今季は860個の実を付けた。甘味と酸味のバランスが良く、食べやすい「アップルマンゴー」に比べて、「金蜜」は芳香な香りとねっとりとした舌触りで、後味にどこか鉄分味を感じる独特の味わいだ。
さらに珍しい品種として、香りと味わいが独特な「白い妖精」、酸味が立つ「マウイ2号」を食べ比べすると、それぞれ全く味わいが異なることに驚く。
「昨今は糖度の高さで評価される文化になっているが、本来のマンゴーの魅力は糖度がすべてではない。ある程度酸味があって、バランスが取れているものがおいしいと思う。それに加えて、今は糖度だけでなく色や形のきれいさといったグレードまで求められる点も、生産においての難しさを感じます」と康吉さん。
消費者がどのような味わいを求めているのかのニーズの把握と、品種ごとの特性を理解し、味わいが異なる多品種ならではの魅力の訴求が今後の展開の鍵となる。
さらには、収穫時期によって香り、甘さ、酸味が変化するフルーツの特性を活かした商品展開もポイントとなりそうだ。
農業の課題と挑戦。今帰仁マンゴーのこれから
現在は、息子の洋平(ようへい)さんが代表を継ぎ、康吉さんと二人三脚でマンゴーの生産・販売を行っている。
今帰仁村には24ものマンゴー農家がいるが、課題は次の世代の育成。あけのフルーツでも、青果部門に加えて加工部門を立ち上げて、次世代への展開を模索中だ。
「糖度は十分だが色味が足りていないB〜C級品を加工し、保存がきくジェラートや、かき氷シロップなど商品化に今後力を入れていきたい」と話す洋平さん。
多品種栽培のノウハウを持つあけのフルーツならではの新商品案として「マンゴー味比べコールドプレスジュースセット」の展開話にも花が咲いた。
40年間変わらずマンゴーへの情熱を注ぎ続ける康吉さんと、その想いをしっかりと受け継ぐ洋平さん。親子二代で紡ぐマンゴー人生は、南のフルーツ村でこれからも続いてゆく。