コンクール連続金賞のブランド米から始まった「株式会社雪ほたか」の米作り改革/群馬県利根郡川場村

群馬県北部に位置する川場村(かわばむら)は、武尊山(ほたかやま)から流れる薄根川(うすねがわ)など四本の一級河川が村を形成する、人口3,000人ほどの農山村だ。米所のイメージのない群馬県で、川場村のコシヒカリ「雪ほたか」と新品種「ゆうだい21」は、国内最大級の米のコンクール「米・食味分析鑑定コンクール」で金賞を連続受賞するなど、その品質の高さが注目されている。

目次

米作りに最適な環境で育った“幻の米”

武尊山の南麓に位置し田園風景が広がる川場村は、昔から稲作が盛んな土地柄で村民の多くが農業に携わっている。村のシンボルでもある武尊山の冷たい雪解け水と、標高500mの寒暖差など、おいしい米作りに適した条件がそろう川場村の米は、長い間、地元でのみ流通し消費されてきた。

そのため村の人々は、いつも食べている米がどのくらいおいしいか意識したこともなく、このまま自分たちが食べる分だけを作り続けていければいいと思っていたという。

しかし平成の大合併で周辺の市町村と合併することなく自主自立の道を選んだ川場村は、村の主要産業である農業も自立しなければ、村が衰退してしまうのではないかという危機感を抱き始める。

そこで自分たちがおいしいと思って食べている川場村の米をブランド化し、たくさんの人に届けることで農業を自立させていこうと、村を上げての挑戦が始まった。

数々のコンクールで金賞を連続受賞した「雪ほたか」と「ゆうだい21」

地元でのみ流通していた川場村のコシヒカリをブランド化して、たくさんの人に届ける。そのために村の人々が行ったのが、もともと生産していた米を武尊山の雪解け水で育てたことから「雪ほたか」と命名してブランド化し、同時に雪ほたかの生産組合を立ち上げることだった。

「私たちがおいしいと思っている『雪ほたか』は、村外からどのように評価されるのか試してみようということになり、2006年に初めて「お米日本一コンテスト」に出品しました。そうしたら、いきなり3位入賞という、すごくいい成績が取れた。これは自分たちだけではなく、他者からも評価されるお米なのだと、すごく自信になりました」と、株式会社雪ほたかで米を作る小林仁志さんは振り返る。

2007年からは国内最大級の米のコンクール「米・食味分析鑑定コンクール」に出品し、毎年高評価が得られたことでさらに自信をつけ、生産組合は法人登記を変更し、株式会社雪ほたかとなる。現在では米の販売、集荷、袋詰めなどを行い、川場村のブランド米が会社を通して品質管理できるよう体制を整えている。

地域の特性を活かした、基本に忠実な米作り

総出品数5,000検体以上の「米・食味分析鑑定コンクール」のなかでもメインとなる国際総合部門は、毎年18名前後の金賞受賞者を輩出している。初出品から17年間で12人の金賞受賞者と19回の金賞受賞という実績からも、この土地がいかに米作りに適しているのかがわかる。土地の持つ環境の良さを活かすために、基本に忠実な米づくりを行なうのと並行して、毎年少しだけチャレンジングな試みをすることで、常により良い米作りを目指しているという。
宇都宮大学が開発したコシヒカリの突然変異の新品種「ゆうだい21」へのチャレンジもそのひとつだ。

「2020年は10月に入ってから高温の日が続いたこともあり、8年連続で金賞を受賞していた米・食味分析鑑定コンクールで、5年ぶりに『雪ほたか』が金賞を逃したことがありました。それと同時に、収穫後にお米が割れたり砕けたりする“胴割れ”を起こすお米が多かった。そうしたことから、将来的に川場村もコシヒカリを作ることが厳しくなるかもしれない、という危機感を持ちました」

昨今の異常気象を鑑みて、小林さんをはじめとした米の生産者は、なんとかしなければと思い、試験的に、夢ほたか・川場村・金翔会(金賞受賞者の会)の三者共同のプロジェクトとして、現在メインで作っているコシヒカリより収穫時期が遅く、胴割れに強い「ゆうだい21」を作ってみた。すると、1年目で米・食味分析鑑定コンクールで金賞受賞という成績を残すことができたのだ。最近では川場村の米として「ゆうだい21」が同コンクールで金賞を連続受賞している。

このチャレンジがなければ、地域の気象や環境と相性の良い新品種を見つけることができず、川場村の米が築いてきた米・食味分析鑑定コンクールでの連続金賞受賞も途絶えたままだったかもしれない。

無名だった群馬の米が世界で認められるまで

東洋ライス株式会社が企画し、世界一高級な米としてギネス世界記録に認定されている「世界最高米」。その原料米として選ばれるわずか6名の生産者に選考されるなど、数々のコンクールでの華々しい受賞歴とともに名前が知られるようになった「雪ほたか」。そして現在、「ゆうだい21」も新しい川場村の米として注目されている。
「約20年前に『雪ほたか』というブランドを作ったときは、群馬の米なんて誰も知らなかった。米所のイメージがなかった分、賞を獲ることでいろいろな人に知ってもらえたのは、すごくありがたかったです」
小林さんの米作りへの意識を変えるきっかけとなったのも、川場村で開催された米・食味分析鑑定コンクールだったという。

「そのときのコンクールで川場村の先輩が3人、金賞を取りました。いつも顔を合わせている人が日本で最高峰の米作りを行っていると評価されているのを見て、俺にもできるんじゃないかって。そういうお米を作りたいって思いました」
コンクールで評価を受けることがひとつの目標となり、村の生産者全体の品質や意識の向上につながっている。

米の品質管理のために、村が作った“川場村ライスセンター”

おいしい米作りにおいて大切なのは、土地の環境が7割、生産管理が2割、残り1割が収穫後のシステムだという。どんなに良い米が採れても、その後の管理次第で品質が悪くなることがある。
川場村はいわゆる大規模農家が少なく、小さな農家が寄り添って米作りを行っているため、個人で高額な設備投資をすることは難しい。そこで村が大規模設備投資をして、共同で使える“川場村ライスセンター”を作った。これも産地として生き残るための、ひとつのチャレンジだ。

「川場村は山間地域のため、一つひとつの田んぼが小さく、収穫量も多くありません。そうした不利な条件を“質”でカバーするために、生産者一人ひとりが品質と値段と収穫量のバランスを調整しながら、米作りに集中できる仕組み作りをしています」と、川場村ライスセンターを指定管理で運営している、株式会社雪ほたか専務取締役の星野孝之さんは話す。

米の等級やスコアによって買い取りの価格が大きく変わるため、ライスセンターでは生産者ごとに乾燥、調製し、それぞれの米の情報をフィードバックして、個々の改善や創意工夫を促している。

官民連携で米作りを進める「株式会社雪ほたか」

川場村の米生産者は、ライスセンターに持ってくれば必ず買い取ってもらえるというハード面と、コンクールでの受賞実績による「おいしい米を作りたい」というモチベーションアップというソフト面から、安心して米作りに集中できる環境が整っている。生産者自身が農業によって自立し、収穫量が少ないという弱みを高品質な米を作ることで解消している。
川場村ライスセンターで買い取った米の売り先や価格、販路の開拓についても株式会社雪ほたかが行っている。

「さまざまなコンクールでの高評価が全国に広まり、ブランド米として『雪ほたか』の価値は高まっています。今、市場の1.5倍くらいの価格で生産者から買い取っていて、そこから流通に乗せていくので、店頭に並ぶときには一般のお米の2倍くらいの値段になります」と星野さん。
この高品質・高付加価値で、高単価を維持するために、年に6回ほど栽培講習会を行い、生産者の意思統一と栽培技術の統一化を目指している。

株式会社雪ほたかは川場村のブランド米「雪ほたか」を作る人が正当な利益を得られるように、自社で品質を管理し価格設定まで行っている。官・民が協力して地域で独自の仕組みを作り、村の農業が自立できるようシステム化した、ひとつの成功例だと言える。

川場村のスローガン“農業+観光”の実現

川場村が50年前に掲げた村作りのスローガンは、“農業+観光”だ。

現在、“観光”の部分では全国の道の駅の中でもトップクラスに位置付けられる、道の駅 川場田園プラザが人気の観光スポットとして、年間約250万人の来場者を集めている。
“農業”の部分では「雪ほたか」でコンクールに挑み、品質や知名度を高めて強いブランド力を築いた。そして高品質、高付加価値で高単価を実現し、田んぼが小さく収穫量が少ないという山間部の問題を解決した。

そこには自分たちで生産組合を立ち上げた後、株式会社として運営し、ブランド米を販売も含めて管理するという、農業の自立がある。川場村の米が高品質で強いブランド力を維持し続ける限り、この村に広がる田園風景は村の人々がしっかりと守っていく。そして美しい田園風景に癒やされたい人々が訪れることで、道の駅 川場田園プラザにもさらに多くの人が集まるという好循環が生まれている。

農業も観光も、この土地がもともと持っていた魅力や環境を最大限に活かした結果であり、そのことがこれからも村の人々の誇りと自信になっていくだろう。

ACCESS

川場村ライスセンター
群馬県利根郡川場村大字生品2670
TEL 080-3576-7630 
URL http://www.yukihotaka.jp/index.html
  • URLをコピーしました!
目次