食の開拓者としてのジビエの魅力を伝える「株式会社ELEZO」のスピリッツ/北海道中川郡豊頃町

料理人としての顔を持ちながら、ハンターとして狩猟から生産、熟成・加工、販売まで一貫して手がけるELEZOを興した佐々木章太代表。ジビエに対する思いや自然や命への一貫したスタンスを持つ会社の見つめる食の未来とは。

目次

十勝の発祥の地で「食の開拓者」をめざして

十勝地方の開拓は明治時代に本格化したといわれる。最初に農家が入植したのが十勝川の河口に位置する大津地区で、河口を起点にさかのぼる形で開かれていった歴史を持っている。大雪山系十勝岳を源流とする十勝川の河口に位置する豊頃町(とよころちょう)が「十勝発祥の地」とされるゆえんだ。

海と山、十勝平野の広大な畑からなり、農業・漁業がさかんな豊頃町。河口の大津海岸に打ち上げられた十勝川の氷が太陽光でキラキラと輝く「ジュエリーアイス」の絶景を目当てに町を訪れる観光客も多い。タンチョウやオジロワシなど希少な野鳥や動物たちが手つかずの自然の中に暮らしている。

この豊頃町に「食肉料理人集団」として知られる株式会社ELEZO(エレゾ)社がある。2005年に創業した野生動物の肉「ジビエ」をはじめ、豚などの食肉を一貫して生産、管理をする会社だ。ELEZO社では狩猟や飼育、熟成、加工及び商品開発、レストランなどでの販売・提供までワンストップで手がけている。

2005年、佐々木章太代表が最初に会社を興したのは自らの住む帯広市だった。その後、父方の実家である豊頃町大津に⾷⾁総合ラボラトリーを建て、拠点を移している。

「子供の頃、父の実家として、豊頃町に遊びに来ていました。開拓当時は映画館や競⾺場などもあったんですよ。自然の中に人のにぎわいも感じられていたのに、すっかり寂しくなってしまって…。十勝開発の発祥の地でもあり、私にとってもあらためて『⾷の開拓』をしたいという思いがありました」

佐々木さんが豊頃町、中でも海に近い大津を選んだのはもう1つ理由があるという。「海沿いでは海のミネラル分を含んだ栄養豊富な牧草が育つんですよ。滋養分いっぱいの牧草をはむ動物たちは、他の地域で育てるより肥えるんです。豚にしても鶏にしても動物たちのポテンシャルをより引き出してくれます」

「ジビエ肉」の既成概念を覆す新たな出会い

高校まではプロアイスホッケー選手を目指していた佐々木さんだったが、実家が飲食業を営んでいたこともあり、高校生活の傍ら、店を手伝い、その大変さを身近で感じながらも、料理に対しての興味を次第に深めていた。

「祖母と母が営むレストラン『繪麗(エレ)』はおかげさまで帯広の皆さんに愛されている存在で。だからこそ自分や兄弟が跡を継いででも、ずっと続けていかなければいけないという思いがありました。」

そこで、高校卒業後は料理人の道を志し、群馬県の料理専門学校へ進学。卒業後は星野リゾートに就職し、休日には軽井沢のフレンチ『ビストロ パッション(現店名プロヴァンス)』を訪ね、シェフの教えを請う。さらに料理の腕を磨くため、2年が過ぎた頃にシェフにお願いし紹介されたのが東京・⻄⿇布のフランス料理店「ビストロ・ド・ラ・シテ」だった。1973年に生まれたこの老舗フレンチでは、レストランとは違う、ビストロらしさにこだわった本格的で温かみのある料理が並ぶ。

名店での修業を経て、祖母から店を引き継いだ母を手伝うため、料理人として実家に戻ることになったとき佐々木さんは思った。「ただ家業を継ぐのでなく、十勝帯広のこの店でしかできないことをやりたい」と。

その答えはなかなか見つからず模索する日々が続いていたある時、常連客と「ジビエ」の話題に花が咲く。

「東京での修業時代、鹿をはじめとするさまざまな野生肉を扱っていたと伝えたら、『鹿一頭そのままはないだろう』『骨も皮も外したことはないだろうから、今度持ってくるよ』とおっしゃって。次の日、仕留めたばかりの鹿を持ってきたので、お客様が実はハンターだったと知りました」

名店で料理人として学びながら、勉強を兼ねてさまざまな美味しいものを食べ歩いてきた佐々木さん。もちろんジビエも食べていたものの、美味しいと感じたことはなかったと話す。目の前に置かれた鹿の皮をはぎ、骨を取り肉にする過程を経験した衝撃は大きかった。解体から数日後、口にした鹿の肉の味にもさらに驚かされたという。これまでの「ジビエ」の概念を覆す美味しさだったからだ。

「修業先のオーナーやシェフ、お世話になった皆さんに地元の鹿を送りました。すると皆さん、想像以上の美味しさにビックリしたみたいで。そのシェフたちに『牛や豚のように畜産ではないため、生育環境や季節、餌、雌雄や年齢、捕獲方法によっても、味や香りにばらつきがあり困っているので、安定した品質のジビエが入手できるよう、協⼒してほしい』という相談を受けたんです」

とはいえ、「ジビエの専門会社」を目標としたわけではない。

「ジビエって本当に奥深くて、だからこそ難しい。本質、というものをちゃんと理解したいという気持ちはすごくあって。ジビエの第一人者になりたいというのではなく、本質を解き明かしたいという一心なんです。私はもともと料理⼈ですけど、答えって厨房やお店、それからお客様が持ってるわけではないと思っています。厨房の中でもう『肉』になった⾷材と対峙してるだけでは絶対得られないものです。⾃然の中に答えがある。自然の中でしか享受できない感覚を働かせるようにならないと」

以前から、食肉事業に関してはネガティブな印象ばかりが広がっていることにも疑問を抱いていた、と佐々木さん。「皆、肉を食べてその恵みを享受しているのに業界に関する理解や感謝が乏しい。食肉業界で働く人々が報われない現状を知るようになり、狩猟はもちろん、飼育や熟成、流通・加工、調理まで『食』についてトータルで担えたら、皆の意識も変わるのではないかという。自分の中である種の使命感のようなものも生まれていったんです」

自らハンターとなり食肉処理業の許可を取得

鹿など野生鳥獣を提供する場合、食肉処理業の許可を受けた施設からの仕入れが必要となる。都道府県の条例に基づいた食肉処理場での解体、処理を行わなければならない。「ビストロ・ド・ラ・シテ」をはじめ、同門のシェフが営む「ル・マノワール・ダスティン」「しらとり」「ザ・ジョージアンクラブ」など4軒に合法、かつ安全なジビエを届けるため、佐々木さん自らが早々に狩猟免許を取得。保健所から認可を得て、改造したテナントを処理場とするなど必要な体制を整備した。さらに専属ハンターを雇用するなど、ジビエ肉流通に関する斬新なシステム構築に力を注いできたという。

加えてELEZO社では、狩猟する「鹿」についても3歳以下の若鹿と明確なルールも決めた。

「⿅の寿命は10歳前後。⼤きい⿅のほとんどが5歳〜10歳なんですよ。日本の食肉はキロ売り文化が一般的です。処理をする際、鹿の大きさや月齢などで手間は変わりません。たくさんの肉量が取れる大型の鹿のほうが、効率がいい。だから肉の質を問わず大きな鹿の肉が東京などに流通する悪循環が生まれてきた。私が食べて美味しかったのは柔らかな肉質をもった2歳の鹿です。以前食べた鹿が美味しくなかった理由がわかりました」

また、臓器や⾝体を傷つけないようネックもしくはヘッド以外は銃で狙わないことも決めている。お腹の辺りに撃てば、内蔵も傷つき、肉も硬くなり、品質の劣化に繋がってしまうからだ。狩猟後は野外では処理をせず、1時間以内にラボラトリーへ搬⼊するなど衛生的見地にも配慮した処理を行っている。

食肉総合ラボラトリーを創設

ELEZO社の蝦夷鹿肉は評判となり、佐々木さんのいう「クリアで清らかな」上質の若い雌鹿に人気が集中する。ただ、必ずしも若い雌鹿を狙えるとは限らず、雄の鹿が持ち込まれることもある。またロースやヒレなどの需要の多い部分以外の人気のない肉の処理をどうするかも課題となっていた。

「一般的なレストランのように、ロースだけ欲しいとかここだけほしいというのが良くも悪くもできないんです。だからこそ、⼀頭全てに責任を持つのが私たちのポリシーです」

そこでELEZO社は“命のすべてを昇華する”ラボラトリーを創設。よりフレッシュな状態でサラミやテリーヌ、ハムなどに加工し、同社のシャルキュトリ部門で販売している。需要の多い人気の部位は生肉で熟成させ、レストランに販売。シェフ同⼠の⼝コミからELEZO社の肉質のよさは広まり、現在は全国で400店舗、蝦夷⿅だけで年間約600~800頭を出荷している。

加えて「ジビエを解き明かして、その後にジビエを内包した家畜家禽の⽣産をしたい」という創業当時からの思いで、ジビエに近い、自然なスタイルでの鳥や豚の飼育にも力を入れている。

「例えば普通なら6ヶ月しか飼育しない豚を1年半じっくり育てたり、傾斜のある丘に早くから放牧したり。鶏を地面に放すストレスフリーな平飼いも実践しています。テーブルミートとして人間の都合に合わせた生態から、⾃然で⽣きてきた動物とか⾃然で⽣きるべき動物の背景や感情、機能を感じさせる環境での飼育、なるべくジビエの環境に近づけたい」

食肉や命、自然への美学を未来へ伝える

2022年10月にはオーベルジュ「ELEZO ESPRIT(エレゾ エスプリ)」をオープン。食肉への美学をはじめ、命や自然についての本質に迫るELEZOならではの料理や空間を味わえる施設となっている。

佐々木さんは、「料理⼈から始まる食のAtoZ、狩猟や生産から熟成・加工、販売までをこなすのは、本当は非効率」と語る。しかし⽣態系から⽣き物の習性とか⾁作りのイロハを知る自分たちがさらに本質を突き詰めれば、食材そのもの、⾃分たちの願う価値をつくることができ、大きな強みにも繋がるともいう。

「私たちが19年かけて作ってきたこのAtoZのモデルを、海外でも実現する準備をしています。モデルそのものもですが、最終的にはアカデミーを作って職⼈さんの価値を高めていきたいと考えています」

今後は牛、それから日本やフランスの鴨、雉(キジ)もこの地で育てたいと話す佐々木さん。食文化への熱い思い、探究心は今後も加速し続けていく。

ACCESS

株式会社ELEZO
北海道中川郡豊頃町大津125
TEL 015-575-2211
URL http://elezo.com/
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