山陰の冬の味覚といえば、“松葉蟹”や“紅ずわいがに”。鳥取県米子市にある前田水産は、
カニの美味しさをおこわやドリアに詰め込んでその魅力を全国に伝える老舗の海産物加工会社です。
「紅ずわいがにのおこわ」は、優良ふるさと食品中央コンクール新商品開発部門で農林水産大臣賞、
鳥取県の「食のみやこ鳥取県」特産品コンクールで最優秀賞も受賞するなど、カニの美味しさを発信するエキスパートともいえる存在です。
日本国内でも有数の水揚げ量を誇る、鳥取県西部の境港(さかいみなと)。紅ズワイガニの水揚げ量は全国1位を誇り、多くの加工業者が独自の商品を打ち出している。そのなかでも、獲れたての紅ズワイガニをふんだんに使った前田水産のかにおこわやドリアが注目を浴びている。
カニの水揚げ量トップクラスの境港
鳥取県米子市、島根県松江市に隣接する境港市(さかいみなとし)。3方面を日本海に囲まれた弓ヶ浜半島の北端に、紅ズワイガニの水揚げ量全国1位を誇る漁港「境港」がある。
春にはホタルイカ、夏には生クロマグロ(本マグロ)、秋から冬にかけては松葉ガニや紅ズワイガニ、その他サバ・イワシ・スルメイカなど、年間を通じてさまざまな種類の魚介類が水揚げされるため「西日本の物流拠点」の名称も持つ。カニの加工場も豊富なため、全国からカニが集まってくる水産の町だ。
鳥取が誇る、松葉ガニと紅ズワイガニの産地
境港で獲れるカニは、主に松葉ガニと紅ズワイガニの2種類。松葉ガニはオスのズワイガニ の別称で、山陰地方の日本海で獲られたものを指す。水深200〜500mの場所に生息しており、殻がかたく身がぎっしりと詰まっている。生・加熱・冷凍、どの方法でも美味しく食べられるのが特徴だ。一方、紅ズワイガニは1,000m前後の深海に生息していて、殻が柔らかく水分を多く含む。ジューシーでカニ特有の甘みを感じられるのが特徴だが、水分が多い分、鮮度が落ちるのも早い。また、一度冷凍してしまうと解凍した際にドリップが出やすくなり、旨味が逃げてしまう。カニの鮮度を保ったまま、いかに美味しく加工するかが、各加工業者の腕の見せ所だ。
イワシからカニの加工へ舵を切った前田水産
さまざまな加工会社がある中で、カニの旨味を逃さず、消費者にも食べやすい総菜を手掛けているのが、前田水産の前田哲弥さんだ。創業は1960年、前田さんの祖父が四国で煮干しの加工場を経営したのがはじまりだという。その後、漁獲高減少の影響を受けて別の港を探し、境港にたどり着いた。
当初は地引網漁でイワシを獲り、天日干しにする加工を行っていたが、境港でもイワシの漁獲量が減少。イワシだけでなく、他の魚も加工しなければと思っていたところ、紅ズワイガニの加工が話題になり、カニの加工へと舵を切った。
自分たちにしかできない付加価値を求めて
しかし1985年以降、カニの漁獲量は減少傾向をたどる。父親からは会社をたたむ選択肢もあると言われていたが、これまで積み重ねてきた業績や従業員のことを考えると、簡単に辞めるわけにはいかない。明確な答えが出ないまま先代が亡くなり、前田さんが33歳のとき会社を継いだ。会社の方向性を模索していく中で、前田さんは「やっぱり境港のカニの美味しさを届けたい。ボイルのむき身だけではなく、資源減少にも負けない、特徴のある加工品を作ろう」と決意する。
手軽にカニが食べられる「かにおこわ」を開発
そこから専門家に協力を仰ぎ、手軽にカニが食べられる総菜の試作を繰り返した。そして、カニの甲羅も活用でき、レンジで簡単に温められる「紅ずわいがにかにおこわ」が完成。カニの身をボイルする際にできる煮汁を贅沢に使い、カニの風味がより味わえるよう工夫した。おこわには、コシの強さに定評があった地元産のもち米「ヒメノモチ」を使用。もちもちで、カニの臭みがなく、くどくなりすぎない。さっぱりと食べられるかにおこわが誕生した。
開発当初は、以前からむき身を卸していた居酒屋や旅館に協力してもらい、鳥取を訪れるお客様に提供。かにの旨味たっぷりのおこわは人気を博し、かにおこわの認知度は徐々に上がっていった。
また、土産店やオンラインショップなどでも鳥取のお土産として選んでもらえるよう、パッケージも工夫。袋のままレンジで簡単に解凍でき、カニの殻を手で剥くことなく簡単に食べられることから「カニの普及にもつながる商品になった」と前田さんは言う。
また、前田水産がカニのむき身以外の加工に対応していることが伝わり、「こんなものを作れないか」と相談を受ける機会が増加。自社商品のほかにも、おせち料理のおかずや百貨店の贈答品などの開発・販売につながり、おこわをはじめとした加工品作りは経営面でも大きな支えとなった。
その後、その手軽さと美味しさが評価され、2010年には鳥取県の特産品が集まる「食のみやこ鳥取県 特産品コンクール」で最優秀賞を受賞。さらに2011年度には、地域の特性を生かした食品が表彰される「優良ふるさと食品中央コンクール」の新製品開発部門で、最上位の農林水産大臣賞を受賞した。農林水産大臣賞の受賞は鳥取県全体の中でも初の快挙で、その知名度はアップしていった。
美味しさの秘訣は加熱の工夫と旨味を閉じ込めたオイル
カニの風味は熱に弱く、加熱後に時間が経つと香りが飛んでしまう。また、紅ズワイガニは水分を多く含むため、解凍後のドリップをいかに抑えられるかが重要だ。
前田水産では、ズワイガニの旨味をキープするために、単純にボイルするだけではなく、蒸したり焼いたりするなど、商品にあった加熱を行っている。また、カニの個体差に合わせて加熱の時間調整も徹底することで、身のほくほく感や旨味を最大限に残している。
さらに、カニの旨味や風味をより感じてもらえるよう、カニのフレーバーオイル「グランキオイル」をオリジナルの製法で開発。カニの殻や身をオイルで煮込み、旨味と風味を閉じ込めた。無添加・無着色・無香料のオイルはおこわにも活用されており、まるで焼きガニのような濃厚なカニの旨味が楽しめる。
カニのパワーを詰め込んだオリジナル商品
おこわが高い評価を受けたことを機に、さまざまな加工品も展開。現在おこわとツートップで人気があるのが「紅ずわいがにドリア」だ。ドリアに使うベシャメルソースには、「白バラ牛乳」でも知られる地元の酪農組合『大山乳業』の牛乳を使用。米ももちろん鳥取県産だ。
また、増量剤などを使用せず、ぐつぐつと煮詰める昔ながらの製法で作ったカニ味噌を甲羅にたっぷりと詰めた「かにみそ甲羅焼き」は、食後に日本酒を注いで炙ると甲羅酒にもなり、贈り物としても喜ばれている。
「カニは地球を救う」カニの可能性を信じて
近年は、その美味しさだけではなく、甲殻に含まれる「キチン・キトサン」も注目されているカニ。「キチン」は甲殻に含まれる動物性の食物繊維の一種で、人体に消化・吸収可能な「キトサン」に加水分解されて利用される。その使い道は多種多様で、医療現場では手術用の糸や人工皮膚への活用、農業分野では畑に加える肥料、普段の私たちの暮らしの中では化粧品や健康食品として重宝されているのだ。
「身は食用に、甲羅は器に、殻は医療現場や畑に。カニは美味しく食べられて、体に良い成分もあり、捨てる部分がほぼない。そして何より、カニをもらうとみんながハッピーになる。『カニは地球を救う』という可能性を信じ、カニの魅力を届けていきたいと思います」。
美味しいおこわやドリアはもちろん、さまざまな活用方法があるカニ。その魅力を世界に発信し続けていきたいという前田水産から今後も目が離せない。
境港に水揚げされる紅ずわいがにを「美味しさはそのまま、もっと食べやすく」を実現した「前田水産」です。カニを食べてカニのパワーをもらって欲しいという気持ちで、紅ずわいがにのおこわやドリアを開発しました。カニの身には、体に良いと言われるタンパク質やビタミンEも含まれています。カニの甲羅や殻もリサイクルすることができ、「カニは地球を救う」をモットーに加工品製造に取り組んでいます。全国どこにいても、カニを楽しむことができるよう、カニの旨味をおこわやドリアなどに詰め込んでいます。