山梨の固有品種「甲州」を大切に、伝統と革新のワイン造りを「ルミエールワイナリー」 /山梨県笛吹市

西洋文化が日本に流入してきた明治時代、降矢醸造所の創設以降、山梨県生まれの品種「甲州」に重きを置きながら日本を代表する銘柄を世に送り出してきた株式会社ルミエール(以下ルミエールワイナリー)。日本ならではの甲州オレンジワインやスパークリングワインの開発に注力しながら、山梨のワイン産業の発展に尽力してきた木田茂樹社長が考える今後のビジョンとは。

目次

明治創業の宮内庁御用達ワイナリー

日本でワイン産業が始まったのは、幕末から明治期にかけての激動の時代。1859年の横浜港開港とともに多くの欧米人が渡来し、日本人は初めてワインを目にすることに。明治政府はワイン造りを重要な産業と位置付け、日本各地で一斉にワイナリーが造られた頃、日本ワイン発祥の地とされる山梨県甲府市では、1874(明治7)年に日本初の国産ワインが醸造されたと伝えられている。

急速な近代化とワインブームの大きな流れの中、ルミエールワイナリーは1885(明治18)年に降矢醸造所として創業1943年に株式会社甲州園に改名、1967年にモンドセレクション国際ワインコンクールで金賞を受賞したことで世界的に認知されるようになり、1992年にワインブランド「ルミエール」を社名にした。

大正時代には宮内庁御用達になり、歴史と伝統を誇る格調高いワイン造りが現代に脈々と受け継がれている。

山梨県にとって特別な品種「甲州」のワイン

2005年の創業120周年の節目に社長に就任したのが木田茂樹氏。2004年から山梨県ワイン酒造協同組合の理事を歴任し、2005年にはスロベニア国際ワインコンペティションの審査員を務めている。「山梨の最大の強みは甲州の存在。日本初のワインの地理的表示『GI 山梨』が認定された2013年以降、甲州ワインが世界的に認知され、海外のワイン好きが甲州を求めて日本を訪れる」と語る。繊細な味わいでバランスが良い甲州は料理に合わせやすく、特に和食とのマリアージュは最高だと海外から称賛されているという。

「甲州園」と名付けられたほど甲州の生産量が多く、現在も甲州ワインに最も注力しており、柑橘系の香りが楽しめる「甲州シュールリー」、しっかりと樽熟成させた芳醇でボリューム感のある「光 甲州」、果実香とまろやかな酸が楽しめる豊かな味わいに仕上がったオレンジワイン「プレステージクラス オランジェ」と、個性的なラインアップが揃う。木田社長は「特に皮ごと仕込むオレンジワインに最適な品種」と甲州のポテンシャルの高さを絶賛する。

瓶内2次発酵後に1年以上瓶熟成を行うスパークリングシリーズもバリエーションが豊富で、「スパークリング甲州」「バリック甲州&シャルドネ」「トラディショナル スパークリング KAKITSUBATA」「スパークリング オランジェ」と、甲州だけでも3種類があり、すっきりとした辛口のスパークリングは、しっかりとした厚みがありながら和食に合わせやすい。甲州を使ったオレンジワインのスパークリングは珍しく、「甲州はもともと柑橘系の香りがあるから爽やかさが醸し出せる。欧州系品種に比べると糖度が2~3度低いが、樹上完熟させてから収穫するとしっかりと味わいののったスパークリングになる」と語る。 

甲州以外にもシャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、スペインの品種・テンプラニーリョなど10品種以上を栽培しており、温暖化に合わせてスペインやイタリアなどのいろいろな品種の試験栽培に積極的に取り組む。その中でもミルズという希少品種は、甘口ながらライチのような香りが特長のアロマティックなワインに仕上がるという。

オーガニックの精神でブドウを栽培

現在4haの自社圃場をもち、不耕起かつ草生栽培減農薬自然農法に近い栽培方法を取り入れている。基本的にはなるべく肥料を与えずに栽培しており、ブドウの搾りかすを一年かけて堆肥にして土に戻す循環型農業に取り組む。「手を加えすぎたり余計なことはしない。むやみに糖度を上げようとしなくても、この自然環境でできあがったブドウで造られたワインこそ日本人の身体と食事に合うと考えている」。「栽培から醸造まで若いメンバーが中心で、みんなで造り上げているのがルミエールらしさ。スタッフの優しさがワインの味わいにしっかり表れていると思う」

時代を超えて受け継がれる古来の設備と製法

明治時代から歴史を紡いできたルミエールワイナリーには、ワイン醸造で使われた貴重な歴史遺産が残る。国の登録有形文化財指定の「石蔵発酵槽」は、1901(明治34)年、扇状地の傾斜を利用して構築された石造りの発酵タンクだ。ステンレスタンクがない時代に大量にワインを醸造するのに欠かせない設備だった。2018年には日本遺産「葡萄畑が織りなす風景~山梨県峡東地域~」の構成文化財にも指定され、現在もこの伝統ある石蔵発酵槽を使ってマスカット・ベリーAを醸造し「石蔵和飲」として販売。ブドウの収穫作業から仕込みまで行う「石蔵和飲仕込み体験イベント」も開催している。

古樽が並ぶ石造りの地下セラーも長年使われているもので、季節を問わず平均19度と発酵に適した温度に保たれ、地熱の特性が生かされている。秋の醸造シーズンの樽からは絶えず発酵音が聴こえ、その息づかいからブドウの生命力が感じられる。

県内ワイナリーのまとめ役として

現在、山梨県ワイン酒造組合の副会長としてマーケティングに力を入れている木田社長は「日本ワインが世界から脚光を浴びているのは間違いない。特に山梨は組合がしっかりと技術指導を行い、全体のレベルが底上げされている」と語る。県内には個性のある魅力的なワイナリーが90社以上存在し、その中でも大手企業が栽培や醸造において研究・分析したデータを相互に共有できているのも山梨の強みだという。「いろいろなワイナリーのデータが集積していると、それだけ経験値が何倍にもなる。ライバルでありながら技術的な情報共有ができるのは山梨のワイナリーの長所」と語る。

しかし、果樹の一大産地ならではの課題もある。甲州は奈良時代から存在する山梨生まれの品種で、気候の変動にも強いと言われているが、木田社長は生産農家の減少によって甲州がなくなってしまうことを危惧する。「販売価格が高いことから、甲州からシャインマスカットに改植してしまうブドウ生産者も多く、年々醸造用ブドウが減少していて、原料不足が問題になっている。だからこそ、ブドウ生産者が醸造用ブドウを栽培してしっかり収入を得られる仕組みづくりが必要」と言葉に熱がこもる。

経営者という立場からも「山梨のワイナリー全体がどうあるべきかを常に考えている」という。最新の醸造用の機器は海外から手に入りやすくなり、日本のワイナリーの醸造設備はトップレベルまで上がってきているので「あとは栽培における労働の負担をいかに下げて、どのように農業生産性を上げていくかが重要。山梨県ワイン酒造組合全体で気候変動に基づいた品種や栽培地域、そして対策技術などの研究に積極的に取り組んでいくことで、山梨県産ワインのさらなるレベルアップにつながる」と意気込む。

山梨県産ワインのさらなる発展のために

大消費地である東京に隣接していることも強みと捉え「『スパークリングオランジェ』のような新たな価値を創造し、さらにそのクオリティを上げていき、積極的に情報発信を行う。そして山梨のワイナリーに足を運んでもらえるような努力をしていきたい」と語る。特に山梨県内のワイナリー数の半分以上を占める峡東地域は醸造所同士の距離が近く、ワイナリー巡りがしやすいため「日本を代表するワイン観光地として『ワインツーリズム』をもっと定着させてPRしていきたい」。

そのためには交通面での仕組みづくりが課題。バスやタクシーはあるものの限られており、観光シーズン中は不便を強いられることも。日本はもちろん世界中から足を運んでもらえるようなインフラの整備が急務だ。

2009年に山梨県産ワインのブランド化と甲州ワインの市場拡大を目指してスタートした山梨ワイン海外輸出プロジェクト「Koshu Of Japan(KOJ)」の委員長も歴任する木田社長は、今後さらに海外への輸出に力を入れていくという。特に近年は東南アジアへの輸出も増えており「発酵調味料を使う国では現地の料理と日本のワインはよく合う」と微笑む。

130年以上の歴史を誇るブドウ畑と伝統製法を受け継ぎながら、革新的なワイン造りにチャレンジし、世界から高く評価される銘柄を生み出してきたルミエールワイナリー。「ルミエール」とはフランス語で「光」の意味。さらに明るくより強く確固たる「光」は日本ワインの未来を輝かせる。

ACCESS

株式会社ルミエール
山梨県笛吹市一宮町南野呂624
TEL 0553-47-0207
URL https://www.lumiere.jp
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