山形の旬を加工し、質の高い時間を全国の食卓に届ける「セゾンファクトリー」

山形の旬を加工し、質の高い時間を全国の食卓に届ける「セゾンファクトリー」

ジャムやドレッシングといった青果加工品の製造販売を行う「セゾンファクトリー」。旬の素材と人の手を使って丁寧に仕上げられた商品の数々は、高級贈答品として全国の百貨店などで好評を博している。創業から現在に至るまで、多くの荒波を乗り越えながらも、人々の食卓に旬を届ける「セゾンファクトリー」を訪ねた。


きれいな環境で真面目に良いものをつくる



山形県南東部に位置する高畠町にある、果物や野菜の生産・加工を行う「セゾンファクトリー」。本社と工場が位置する元和田は山に囲まれた非常に自然豊かなエリアで、社屋前を通る道は、冬期間には積雪のためセゾンファクトリーの敷地より奥は通行止めになるという。周辺に他の工場や施設がないからこそ、新鮮な空気と清澄な水といった、良い製造環境が保たれ、それが品質の高さにも繋がっているのだとか。


「季節(セゾン)の工場(ファクトリー)」という名が示すとおり、全国各地の旬の素材を使って生産されるセゾンファクトリーの商品は、ジャムやドレッシング、ジュースや鍋のもとなど様々あり、高級贈答品として、はたまた日常のちょっとした瞬間を彩るご褒美品として、地元民のみならず全国各地の百貨店で多くの人を惹きつけている。


しかし、ここまでには、乗り越えなければならない荒波があったと語るのは、セゾンファクトリーの代表取締役社長である小田切一哉さんだ。


手作りのジャム製造から始まったセゾンファクトリーの歴史



セゾンファクトリーの創業は1989年。当初は小さな釜で手作りのジャムを製造し、地元スーパーで販売するところからスタートしたという。その後、消費者によりおいしいものを届けたいという思いの元、高級路線にシフト。百貨店の高級贈答品として人気を博すようになる。


一般的なジャム製品であれば、傷などの理由から生食用では販売できないいわゆる「裾物(すそもの)」を加工するが、そのまま食べられる旬の素材をよりおいしく加工するというのが、セゾンファクトリーのコンセプト。そのため、ジャムとして加工されていながら、まるで生のフルーツを食べているような味わいが特長だ。また、果物加工品だけでなく野菜の取り扱いも始め、玉ねぎや人参を使ったドレッシングなどの生産を開始し、高級加工食品として消費者からの支持を得た。


しかし、順調そうに見えたセゾンファクトリーに突然影がさす。


創業者の急逝に加え、資材費高騰などの影響が重なり経営が急激に悪化。その状況を救済すべく登場したのが、現代表取締役社長である小田切さんが率いるASフーズだった。山梨県中央市に本社を置く同企業。当時、すでにラスクで名をはせる山形市のシベール社をグループ会社化しており、山形県への縁は深かったという。そして2022年6月に新会社ではあるが社名をそのまま引き継いだ「セゾンファクトリー」を設立、同年10月に旧会社のセゾンファクトリーから事業譲渡を受けることとなった。

父が山梨で会社を経営しており、自身も香港留学をきっかけに現地起業をしたという小田切さんは、各地でM&Aと企業の再生を行ってきた。しかし、ただM&Aを行うのではなく、どうしたら価値を最大化できるか、他のグループ企業とどんなシナジーを生めるかを常に考えているという小田切さん。地元密着型のシベール社が作るパンと、全国主要都市に店舗があるセゾンファクトリーのジャムという組み合わせの勝機、そして何よりも「良いものをまじめにつくる」という旧セゾンファクトリーの取り組み方に共感。こうして現在、ASグループは山梨県と山形県を合わせて700人ほどの従業員を抱える企業に成長した。


「セゾンファクトリーは事業譲渡前から地元に根付いており全国的にも有名な企業だったので、根本的に変える気はなかった。そのため、大地の黒と太陽の黄色を表現したコーポレートカラーは百貨店参入をした20年前のものと同じ。きちんとした素材を使い、高価格帯でも消費者が納得する製品を作り続けていくという創業当時からの姿勢を貫くには、これからもものづくりと真摯に向き合っていくしかない」と、小田切さんは豪語する。


こだわるのはきれいな環境と人の手



セゾンファクトリー本社内にある工場では、ジャムやドレッシングをはじめ、近年人気が高い飲用酢まで、多岐にわたる商品が生産されている。


工場内の渡り廊下からは作業の様子を見ることができ、時には百貨店のバイヤーが見学に訪れることも。さながらオープンキッチンのような様相は、生産工程や環境を目に見える形で示すことで商品の値段にも納得してもらうためだという。


そのまま食べてもおいしい高級素材をよりおいしく



工場内の生産工程でまず驚くのは、機械に交じって人の手が重要なポジションを占めていること。例えばたまねぎドレッシングの生産では、皮むきや瓶への充填は人の手で行われる。手間もコストもかかるが、人が行うことで目視や検品なども生産と同時に行うことができるためだという。


もちろん、人気商品で1日あたり4000〜6000本製造される「リッチスタイルドレッシング にんじん」も、機械でかき混ぜを行った後、最終工程の充填は人の手で行い、製品の状態をひとつひとつ確かめながら仕上げられている。生のすりおろしにんじんがたっぷり使われているにもかかわらず、野菜が苦手な人でも食べられたという声が上がるのは、手間暇をかけて丁寧に作られた品質の高さによるものだろう。


日本における旧来の工場生産は、品種を少なくして大量生産を行うのが主流であった。しかし、仕込みと充填のラインを分け「おいしさに直結する部分は人の手で、それ以外は機械で」という切り分けをしているセゾンファクトリーでは、多品種小ロットの生産にも対応している。それゆえ、野菜や果物の旬を活かした商品の販売を行うことができるのだ。


そんなセゾンファクトリーが掲げているのが、「リッチな朝食」というギフト向けのコンセプトだ。


「リッチな朝食」ドレッシングやジュースで生活に彩りを



確かにセゾンファクトリーのジャムやドレッシングは、スーパーなどに並ぶ一般的な同ジャンル製品と比べると高価格だ。中には、サクランボの品種として全国的に名高い旬の佐藤錦をたっぷり使ったジャムのように一瓶1万円ほどするものもあるという。「日本で一番高いジャムメーカーかもしれない」という小田切さんの言葉は、あながち嘘ではない。


同社が打ち出す「リッチな朝食」というコンセプトには、“休日の朝においしいジャムやジュース、ドレッシングに囲まれてゆっくりとした時間を過ごしてほしい”という思いが込められている。普段使いには高価かもしれないが、季節のギフトや結婚祝いなど大切な誰かへの贈り物として、送り先の家族構成が見えるような提案をしているという。


なかでも人気なのは、やはりいちごのジャム。なかでも人気なのは、やはり謹製ジャム春いちごあまおう🄬。一番おいしいと言われる二番果を農家から買い取り、生の果実をそのまま工場で人の手を使って加工してれている。特に大鍋に入ったジャムをかき混ぜる工程は、混ぜ方や力加減が味に直結するため、熟練の技が必要。セゾンファクトリーでは、かき混ぜ技術の社内基準に達した「マイスター」と呼ばれる人たちのみが鍋の前に立つことが許されるというこだわりようだ。いちごだけでなくオレンジやブルーベリーなど年間を通して人気が高いジャムのほか、「12 collection(トゥエルブ・コレクション)」という、毎月発売される各月の旬の素材を使ったジャムとドレッシングも好評を得ているのだとか。


また、朝食というコンセプトから需要が高いのが「甘搾り温州みかんジュース」だ。そのまま食べれば酸味が少なく食べやすい日本のみかんは、ジュースにすると水っぽく糖度にかけるという難点がある。その点を解消するため、みかんの濃縮果汁を加えることにより、アメリカのオレンジジュースに負けないほどの甘さを実現した製品だ。


そのほかにも、最近ではシェフとコラボし開発した調味料や鍋スープ、カレールーや出汁パックなど、様々な新製品を世に送り出している。


そのような挑戦を通じ、日本国内では確実に支持を伸ばし続けているセゾンファクトリーの今後について小田切さんが目指すのは、「地方発のグローバル企業」だ。


日本のいいものを、地方から世界へ



「経営方針や商品を時代にアジャストし、ヒットを生み出すことが重要」と小田切さん。そのため、可能性のある若手を登用し、人材づくりに力を入れているという。そして目指すのは、地方からグローバル企業になることだとか。


近年、日本の良いものと中国や韓国からの輸入品の価格が同じ価格帯になりつつある。それは、国内の農家や生産者を買い叩いている面があるため。しかしこのままではいずれ立ち行かなくなってしまう。農家がいなくなれば、加工品会社もつぶれる。日本の物流自体を変えないといずれ破綻が来るだろう、と小田切さんは危機感を抱いている。だからこそ、セゾンファクトリーでは原材料を買いたたくのではなく適正な価格で、関わる人が皆やっていけるような仕組みづくりに取り組んでいるという。


明るく清潔なキッチンで作った安心で安全な製品を流通に乗せ、いずれは日本だけでなく世界の食卓に届けたい。そんな思いが、今日も人の手によって紡がれている。


ACCESS

株式会社セゾンファクトリー
山形県東置賜郡高畠町