やぶきた茶に適した土地、初倉

「こんなところに茶畑があるとは思わなかった」 到着した車を降りて中田はそう言った。
たしかに茶畑というと、山の裾野の段々畑というイメージがある。たすきがけをした女性が、腕に抱えた竹かごに積んだ茶葉を入れていくという風景のイメージ。だが、そこは大井川沿い、一面の平野だった。見上げるのではなく、文字通り「見渡す」限り、一面の緑。清々しい茶畑の風景だった。
「ここの土地は、やぶきたに適した土地なんです」
初倉旧初茶農業協同組合の組合長、塚本澄雄さんはそう話してくれた。大井川の水と、初倉の土地が、やぶきた茶の滋味深く甘い香りをより一層引き出すのだという。旧初茶農協には、大小22軒の茶農家によって茶葉が集められる。そして、その茶葉をブレンド、精製してお茶として出荷する。
いつもと同じ味のお茶をつくるために

「それだと、香りや味が違うものが混ざってしまうのではないですか?」と疑問におもった中田が聞くと、塚本さんは「むしろバラつきが少なくなる」のだという。
「味はちょっとした土の違い、水の違いででてきます。個人農園の方だと、あちらの畑とこちらの畑で土が違うこともある。それに摘む日が違えば味も変わります。だから、『今日のお茶は昨日と違う』ということが起こりやすいんです」
こちらの農協では、すべての農家の肥料からすべてを一貫して管理しているので、あまりバラつきがでない。さらに、納入された茶葉の品質を検査し、どういった配合でお茶を作れば、「いつもの味」になるかを常に検討している。だから、いつも同じ味、同じ香りのお茶が飲めるのだという。「ああ、あのときのお茶がまた飲みたい」に応えてくれるのだ。

