「如月窯」は、岩手県内で採れる原料を中心に使い、素材の良さを生かした器を作る陶芸窯。
多彩な表現技法を駆使し、岩手の風土に息づく美しさを陶器で巧みに表現しています。土が持つ温かさと力強さ、そして日常的な使いやすさが魅力的な器は必見です。
温かみを生み出す工房
岩手県の中央部に位置する盛岡市。そこにある高松の池は白鳥の飛来地としても知られている。この池に隣接する高台に作陶を行う雪ノ浦裕一さんの工房、「如月窯」はある。雪ノ浦さんは岩手大学教育学部数学科に進むが、副専で美術を専攻していた。フレスコ画など古典絵画も学び、数学科卒業後には特設美術科専攻科を履修したのちに、北海道の野幌で焼き物を学んだ。1年間だけ作家さんのもとで修行をし、25歳のとき岩手に来てからは夫婦で作品を作り続けている。
工房に並ぶ食器などの作品を見て中田が「柔らかい」という感想をもらすと、「温かいといわれることが多いですね」と雪ノ浦さんはいう。たしかに棚にならぶ作品はどれもゆったりとした土の持つ素朴な温かさをたたえた作品ばかりだ。食卓にあったら心が落ち着く、そんな食器を雪ノ浦さんは日々創作している。
地元岩手のものを使う
「器は使ってもらってなんぼですから」と雪ノ浦さんはいう。「日常雑器を作れないとダメだと思うんですよ」。展示会に出すためのいわゆる「作品」を作ることもあるが、根本には日常の器にこだわる気持ちがあるという。その気持ちは見た目のおしゃれさだけではなく、使いやすさも兼ね備えた器に仕上げているところからも感じ取ることができる。
また、雪ノ浦さんは岩手の土や灰などの素材をできるかぎり使って陶器を作っている。ほとんどは遠野や花巻や紫波などの土を使っているが、強度を考えて耐火性がある信楽の土も少しブレンドする。また、りんごの灰を使った灰釉の調合比を変え何度も重ねることでガラスのような厚みを出して独特の風合いを出している。陶器の釉として漆も使う。本焼きし焼〆た器の表面に拭き漆して焼き締めることで、使用時に水分を吸収しにくくなるのだ。
広い岩手県の中から材料を探し、常に土のバリエーションを楽しむ。その全く異なる表情をどう活かすか試行錯誤している。
陶芸体験に中田も夢中に
雪ノ浦さんは、ろくろ、手びねり、型おこし、など様々な技法で制作するが、今回は、タタラ技法での陶器作りに挑戦させてもらった。タタラ技法というのは生地を板状にしてそれを成型していくやり方だ。ろくろのように土のかたまりをそのまま形にしていく作業とはまた違った難しさがある。
成形のときにゆっくりと少しずつ形を変えていかないとゆがみのもとになってしまうのだそうだ。また、形作りのために加える力のかけ方が均一でないと焼いた時に焼戻しというものが起きてしまい、これもまた変形の原因となってしまう。
中田もアドバイスを受けながら少しずつ成形していく。気がつけば熱中してしまい、茶碗を二個、そのうえ平皿まで作ってしまった。成形ができたら最後に模様をつけてできあがり。焼き上がりが楽しみだ。
雪ノ浦さんは私たちが忘れかけている素朴で温かみのある土の存在感を作品から伝えようとしている。デザインもさることながら、そんな想いも相まって、私たちの生活の一部としてそっと寄り添ってくれる食器だろう。
「如月窯」の作品が使う人の生活に潤いを与えることができればと思いながら、日々制作に励んでいます。普段使いしていただける器が中心なので、毎日の生活の中でどんどん活躍させてあげてください。