本当の“手延べ”を貫き続ける小さなそうめん屋 南島原・高橋謙作製麺/長崎県南島原市

国内有数の素麺の産地である長崎県南島原市にある「高橋謙作製麺」は、昔ながらの手延べ素麺作りを行う老舗の製麺所です。
コシが強くのど越し爽やか、ふんわりとした上質な素麺は、長く多くの人々に愛されてきました。
また、素麺の製法を取り入れた手延べのうどんや中華麺などの商品も展開しています。

今や「手延べそうめん」のほとんどが機械で延ばして作られる時代。そのような中で、手で麺を延ばすという昔ながらの製法を貫き続ける数少ない製麺所が、そうめんの一代産地・長崎県南島原市にある。機械化が進む今、字の如く「手で延ばす」こだわりの原点とは。

目次

手で延ばすそうめんと、機械で延ばすそうめん

店頭で見かけるそうめんのパッケージを良くみると、「そうめん」とだけ記載されているものと、「手延べそうめん」と書かれているものがあることをご存知だろうか。その違いは製造方法。「そうめん」は小麦粉、食塩、水を混ぜた生地をローラーで薄くのばし、機械で細く切って乾燥させているのに対し、「手延べそうめん」と書かれているものは、同様の生地に“撚り(より)”をかけながら細く引き延ばして乾燥させる。細くて喉ごしが良く、コシがあり、時間が経ってものびにくいのが、こうした「手延べそうめん」の特徴。「そうめん」(機械式そうめん)の食感が手延べより劣ると言われている理由は、この製造工程の違いによるところが大きい。 

とはいえ「手延べ」のそうめんすべてが「手で延ばして」作られているわけではない。作業時間が早く量産に適していることから、今や全国の「手延べそうめん」のほとんどは、機械で延ばす時代だ。そのような中、読んで字の如く「手で麺を延ばしている」数少ない製麺所が、長崎県の南島原市にある。「手で延ばす」製法を貫き続けるのは、高橋謙作製麺高橋徹さんだ。

かつて700を超える製麺所があったそうめんの町

南島原は古くから三輪そうめん(奈良)の下請けとして多くのそうめんを製造してきた歴史があり、最盛期には700を超える製麺所が軒を連ねたという。そうめんづくりに寄与したのは、ほかならぬ島原の自然だ。半島の中央に位置する雲仙・普賢岳の長年の活動により育まれてきた肥沃な大地とミネラル豊富な水。小麦の栽培に適した気候がこの地に小麦栽培を根づかせ自家栽培の小麦でそうめんをつくるのがこの集落では見慣れた光景だった。そして有明海の天然塩、そして潮風など自然の営為が、そうめんづくりを人々の暮らしに根ざし、南島原をよりいっそうそうめんの町として育ててきた。そうしたそうめんづくりの技術を活かし、1950年代頃にはそうめんを主産業のひとつに発展。現在では全国の手延そうめんの約3割のシェアを誇るなど、トップクラスのそうめんの町として伝統を紡ぎ続けている。成長を続けている。

160年の歴史を誇る小さな製麺所

高橋謙作製麺も、その創業は安政5年(1858)と長い歴史を誇る。現在は6代目にあたる徹さんが、妻、息子の家族3人で、日々麺作りに励んでいる。

工場に入ると、両手に持った竹の棒を巧みに使いながら、麺を細く引き伸ばしていく光景が目に飛び込んでくる。絹糸の機織りのように、管(くだ)にかけられた麺の間に竹棒を差し込み、麺をさばきながら手際よく延ばしていく様は圧巻。最初は小指ほどの太さだった麺も、あっという間に1ミリほどの細さになる。

麺を延ばすのは時間との戦い。その日の天候や湿度・温度で麺の質が変化するので、毎朝仕込む生地にも気を遣います。」と徹さん。そうめんの味を決めるのは、夜明け前に仕込む、この生地。厳選した小麦粉に食塩水を混ぜ合わせていく「捏ね(こね)」の作業は、その日の天候や湿度を見極めながら微妙に配合を変えるため、長年の経験をもってしても難しい工程とされている。 

いかに白く、コシの強いそうめんを作るか

「捏ね」で生地がまとまったら、生地同士がくっつかないように食用油を表面に薄く塗りながら、撚りをかけて麺状に引き延ばしていく。徹さんがそうめんに使用する小麦粉は、たんぱく質の含有量がやや多めの中力粉~強力粉。水と混ぜ合わせて捏ねることで、このたんぱく質がグルテンへと変化し、粘り気と弾力が生まれる。またグルテンの量が多いほど黄味がかるのも特徴。何度も熟成させながら、生地を途中で切ることなく幾重にも編み込むように延ばす工程を繰り返すことにより、1ミリほどの細さでも切れないコシの強いそうめんが出来る。「強力粉を使うとコシが強くなりますが、たんぱく質が多い分、グルテンの量も多いから麺が黄色っぽくなりがち。でもそうめんはやっぱり絹の糸のように白いほうがおいしそうでしょう。だからコシを強くしつつ、いかに色を白くするかにこだわっています」

麺を延ばす作業だけは、どうしても手に敵わない

コシが強くても、その日の気候に合わせて延ばしていくため、温度変化でうまくいかず切れてしまったり、色が思うように白く出なかったりもすることもしばしばだという。「私の代で45年やってますけど、今日はばっちりという日は少ないですね」と話す。徹さんが手延べにこだわる理由は、まさにここにある。「生地を捏ねることなど、機械のほうが上手にできることは機械に任せたい。でも延ばす作業は、生地の変化を見極めながら力を加減しなくてはいけない。時間が経つと麺が乾燥したりダレてきたりするので、切れやすいんですね。この、麺を延ばすという作業だけは、やっぱり手には敵いません」と徹さんは話す。生地を引き伸ばし束ねることを繰り返す事でグルテンが麺の中心に通るようになり、一般的なそうめんでは味わえないつるっとしたのど越しと独特の強いコシ、そして茹でても切れにくいあのなんともいえない食感がうまれるのだ。

そんな高橋謙作製麺のそうめんを食べた人が口にするのは、「同じ原料で作っているのに、どうしてこんなに美味しいんですか?」という言葉。一度ついた顧客は、長年徹さんのそうめんを求めてくれるという。「やっぱり手で延ばしていることで、味や食感に違いが出るんじゃないかなと思いますね。手で延ばしていることも含めて、お客さんがそうめんを買ってくれているという感じです。機械じゃないので、どうしても作れる量には限りがある。それでもお客さんから『高橋さんとこのそうめんが一番美味しい』と言ってもらえると、手延べを貫いてきて良かったなと思いますね」と笑顔が溢れる。

乾麺を茹でて食べる日常を取り戻したい

最近では、こうした乾麺を茹でて食べる習慣がない世代も増えつつある。中元・歳暮の看板商品だったそうめんも、近年の市場規模縮小に伴いその需要も減少。加えて、核家族化や共働き世代の増加は、より調理の手間を省いて時間をかけない「時短調理」を促進させている。乾麺を茹でて食べるよりも、お湯を注ぐだけで完成するカップ麺や、電子レンジで温めるだけの冷凍麺が優勢で、「おばあちゃんがそうめんを茹でて家族で食べる。それがまた受け継がれる。そんな風景が減りましたねえ」と徹さんはつぶやく。

生活様式の変化がもたらした産物

しかし、生活様式の変化が訪れた事で、この状況にも思わぬ変化が訪れつつあるようだ。テレワークが増え自宅にいる時間が長くなったことで、ストックしやすい乾麺の売上が上昇。食べ応えや健康面から、味付けも簡単な上、アレンジして楽しめるそうめんやパスタなどの乾麺の出番も増えているという。高橋謙作製麺でも、そうめん以外のちゃんぽん、うどん、ラーメン、冷やし中華などの手延べ乾麺も人気だ。「何よりそうめんをはじめとした乾麺は、素朴でシンプルな美味しさ。ぜひ味を知ってほしい」と徹さん。「ポキっと半分に折って、少し薄めた味噌汁に直接入れる。のせる薬味はネギなどシンプルなものでも十分美味しくて、夏から冬までいろんな楽しみ方がありますよ」と、そうめん屋ならではの茹で方や味わい方を教えてくれた。

瀧のように白いそうめんを

かつては家内製工業として長らく栄えてきた南島原の手延べそうめん。家族という最小単位の人の集まりだからこそ受け継がれてきたそれぞれのそうめんづくりは、今なお残り続けている。

「いろんな製麺所があっていいと思っています。機械の技術も進んでますから、機械に頼るのもいい。でも今のところ、私には機械の必要がないんです。一緒にそうめんを作っている息子も『今のままがいい』と。そういうそうめん屋が一軒くらい残ってもいいかな」と徹さんは目を細める。

看板商品の「白瀧(しらたき)」の名に込められているのは「瀧のように白くて真っ直ぐなそうめんを」という先代の想い。そうした想いを受け継いできた徹さんの視線もまた、真っ直ぐに前を見据えている。「手間もかかるし、時間もかかる。量も作れませんが『高橋さんのそうめんが一番美味しい』と言ってくださる方々がいるかぎり、このやり方に誇りを持ってそうめんを作り続けていきたいと思います」。

高橋謙作製麺 代表 高橋徹さん(中央)

当社の手延べ素麺は、絹のように色が白く、ふんわりとした食感・強いコシ・つるりとした爽やかなのど越しが目標。伝統の技術を受け継ぎ、その日の気候に合わせて時間にとらわれず、じっくりと作業をしていきます。伝統ある「島原手延そうめん」の中でも数少ない、昔ながらの手延べ素麺を、どうぞご賞味ください。

ACCESS

高橋謙作製麺
長崎県南島原市西有家町須川582
  • URLをコピーしました!
目次