農場と研究所を併設するハーブ施設
茨城県・取手市のシモタファームでは、約8haの広大な畑で100種類以上のハーブを中心にさまざまな野菜を栽培している。ミントやローズマリー、タイム、バジルなどおなじみのハーブから、イタリアンやフレンチの特定の料理でしか使われないような珍しいハーブまで、どれも青々と元気に育っている。霜多増雄社長が日本の農業や料理に与えた影響は、かなり大きい。
「ハーブの栽培をはじめたのは、50年くらい前。イギリスで農業の勉強をしようと思って飛行機のチケットを取ったんだけど、着いた先はフランスだった。横文字がまったくわからなかったから間違えて取っちゃった。英語の辞書を持ってフランスに行ったんだよ(笑)。でもその間違えて行ったフランスでハーブをたくさんつかったサラダを食べたら、すごく美味しくてな。これを日本で栽培しようと思ったんだ」。確かに、霜田社長の話を聞きながらいただいたハーブティーは、とてもフレッシュで飲みやすく実に美味しかった。
当初はにおいの強いハーブは市場で見向きもされなかったというが、徐々に有名ホテルのシェフなどから直接注文を受けるようになり、その噂が料理人の間に広がっていった。「いまでもいろんなシェフがきますよ。フレンチの有名シェフでたびたびここに足を運んでくれる人もいるんだよ。みんながあれをつくってくれ、これをつくってくれっていわれるから種類もどんどん増えていった。なかには年に1回だけソースに使うだけってハーブもあるよ(笑)」
研究熱心な霜多社長は、イギリスのハーブ育成で有名な伯爵に手紙を送り、教えを請うたことがあるという。「駄目もとで手紙を送ったんだけど、いきなり返事が来て一週間後に遊びに来いって(笑)。突然だったからあわてたね。とんでもないデカい敷地に着物を着たお母ちゃんと2人で行ったんだよ。それから20年以上、伯爵からはいろんなことを教わったよ」
日本のハーブに欠かせない偉人
霜田社長は、安心、安全な無農薬・無化学肥料栽培にもこだわっている。自分が作る野菜の成分をちゃんと把握することや、味を安定させるためにはエビデンスが大事と考えて、敷地内に大手企業顔負けのラボもつくった。土壌や肥料の研究も欠かさず、近隣農家から土や作物の分析依頼を相談されると快く引き受けている。いまではスーパーで見かけるようになったハーブも、その多くがこのシモタファームを出発点として全国に広がっていった。また、20年以上前からインドネシアからの留学生を受け入れ農業を実地で教えているほか、近隣農家との勉強会なども積極的に行っていて、シモタファームが研究してきた知識や技術を惜しみなく広げている。平成27年にはそれまでの功績が認められ、緑白綬有功章を受賞。丸出しの茨城弁で豪快豪傑な霜田社長は日本の料理の発展に欠かすことのできない“知られざる偉人”なのだ。