日本初の栗のブランド「飯沼栗」
茨城は、栗の産地としては生産量・栽培面積ともに全国1位。その茨城県東茨城郡茨城町下飯沼の名物「飯沼栗」を手にした中田が驚きの声を上げた。
「あれ? 栗ってこんなに大きかったっけ」
驚くのも無理はない。県央部に位置する茨城町下飯沼地区で生産されている「飯沼栗」は、大きいものは直径4センチ以上。ふっくらまんまるに育った栗は、中身がみっしり詰まっているため重さも見た目以上だ。
「飯沼栗」とは品種名ではなく、下飯沼栗生産販売組合による特別な栽培・出荷方法を施した栗に付いたブランド名。
栗は世界中に100種類以上があるというが、飯沼栗は「石鎚」という品種にこだわり、50年かけて磨かれた栽培技術によって生まれたもので、他産地との差別化を図るため、高品質な栗を作って他産地の出荷のピーク時期からずらして出荷を始めたというのが始まりだ。
2017年には、特別な生産方法や25年以上継続した地域の農林水産物をブランドとして国が保護する「地理的表示保護制度(GI)」に栗として日本で初めて認定された。
また、東京の市場では「最高級の栗」ともいわれるほど評価が高く、取引き価格は平均価格2倍以上。全国的にも、栗を扱う者ならばその名を知らぬ者はいない逸品だ。
「普通の栗は、イガのなかに3つ実が入っていますが飯沼栗はひとつだけ。だから形も平らなところがなく、全体が丸くなるんです」(下飯沼栗生産販売組合・東ヶ崎直人さん)
このひとつのイガの中に実を一粒だけ育てる「一毬一果(いっきゅういっか)」の栽培法は下飯沼地域だけ。長年研究を重ねてつちかった技術は門外不出で、現在11農家が秘伝の飯沼栗を生産している。その収穫方法も独特だ。
【提供:下飯沼栗生産販売組合】
【提供:下飯沼栗生産販売組合】
スイーツのような甘さの栗
「この栗は大きく育つとイガを割ってぽろりと落ちてくる。だから収穫はイガから栗を取り出す作業がなく、落ちているのを拾うだけで1個を拾うのは楽なんですよ。拾う量は組合全体で50トン近くありますけど(笑)」(東ヶ崎さん)
この地域でいちばんポピュラーかつ美味しく食べる方法だというゆで栗をいただく。湯気をあげるほくほくのひと粒をナイフで割って、スプーンで中身をくりぬいて食べる。甘さはしっかりとあるが、雑味がない。まるでマロンのスイーツを食べているような感覚だ。
「イタリアにいたころもよく栗を食べていましたけど、こんなに大きくなかったし、味ももっと大雑把だった記憶があります」(中田)
「飯沼栗」の出荷時期は、本来の栗の最盛期である9月・10月を過ぎた10月下旬から11月中旬。理由は収穫した栗を後水洗い洗浄し、1回目の選果をおこない、オガ粉をまぶした状態で最低2週間以上、20日程度を目安に全量冷温貯蔵するから。こうすることで乾燥や腐敗を防止し品質低下を防ぎながら、糖度が2倍近く高くなる。その後、冷蔵庫から出しオガ粉を落としながら適度に乾燥させ2回目の選果を行ったあと、集荷場に持ち寄り馬毛ブラシで磨き上げ、他の組合員による3回目の選別選果と独自の出荷規格による等級階別を経て出荷する。
「天候にも左右されますし、毎年大きな栗を育てるのは簡単ではありません。でもやればやっただけ自分たちに返ってくる。いずれは海外に出荷したいとも考えていますが、まずは国内ナンバー1のクオリティを維持して、飯沼栗の名前をどんどん知ってもらいたいと思っています」(東ヶ崎さん)
ケーキ屋で売っているモンブランくらいしか食べたことがないという人は、ぜひ一度この飯沼栗を食べてみるべきだ。栗そのもののイメージがガラリと変わる美味しさだ。
【提供:下飯沼栗生産販売組合】