2度、農林水産大臣賞を受賞した梨畑
「もともとご実家が梨農家だったんですか?」と中田が聞くと、
秋山孝さんからは「いえ、じつは違うんですよ」という答えが返ってきた。
秋山さんは、「千葉なし味自慢コンテスト」で、唯一、2度も農林水産大臣賞を受賞した梨農家。
だから梨農家に生まれ育ったのかと思いきや、生まれは福島で、18歳までは野球に一生懸命の高校球児だったそうだ。
「末はプロ野球選手、と夢見てたんですが、断念しまして。その後、東京で就職したんですが、このあたりに住んでいたので、結婚後に本格的に梨栽培の勉強を始めたんです」
秋山さんの話を伺いながら、梨の木の枝が天井のように張り巡らされた空間を中腰になって歩く。
ちょっとした異空間のようで見た目にも美しいが、棚の高さが低いので歩くのには辛い。
「なぜこの高さに枝が揃っているんですか?」
「あまりにも高すぎると、剪定をするのに不便なんですね。最初は、1m80cmくらいの高さで棚を組むんです。ぶどう棚と同じくらいですね。それが、梨の実の重みで1m70cmくらいまで下ってくる。梨の実は結構、重量があるんですよ」
新しい品種が生まれ、美味しさと人気が競われる梨の世界
元々このあたりは、明治時代から二十世紀梨の産地だったそうだ。
だから秋山さんの梨畑でも、最初はすべて二十世紀梨を植えた。
ところが植えてから3年後、「豊水がいいらしい」と聞き、二十世紀に豊水を接いで35年になる。
他にも、幸水や新高などの梨を栽培している。
秋山さんによると、梨はたくさんの品種が新しく生まれては消えていくそうだ。
「いろんな品種が作られているんですが、豊水、幸水にはちょっと負けてしまうんですね」
そんな秋山さんが現在期待を寄せている新品種が、「秋麗(しゅうれい)」と「あきづき」の2つ。
「秋麗」は、青梨のなかでもとりわけ甘い品種で、すぐに完売するほど人気だという。
梨好きの中田も、「あ、これはうまい!!」と大絶賛。少し変わった味の梨で、「梨というより、柿の甘いときの味がする」とのこと。
「あきづき」のほうは、時期が少し早かったため試食はできなかったが、日本梨の三大品種とされる「幸水」「豊水」「新高」のすべてを交配した最高品種だ。果肉がやわらかく、酸味の少ないジューシーな甘みが特徴。
健康に育った、豊水の味
「うまい梨というものには、何が大切なんですか?」との中田の質問に、
「良質な有機肥料を使って土作りをし、健康な樹を育てること」だと秋山さんは言う。
「味は、お客さんに評価してもらうしかないです。だから私は、よく知るお客さん方には、忌憚のない感想を言ってもらうようにしています」
中田が訪れたときは、ちょうど幸水の時期が終わり、そろそろ豊水の収穫が始まろうかとしているころだった。
中田にも「うちの豊水はどうですか?」と、誇らしさと心配さが入り混じった顔で尋ねる秋山さん。
「美味しいです。でも、まだ少し硬いですかね。もう少しすれば、もっとやわらかくなってもっともっと美味しくなるのかも。僕の予想では、もう少ししたら酸味と甘みが互いに引っ張り合って、すごくバランスがよくなるんだと思う」
まだ少しだけ早かったが、一番の旬には間違いなく美味しい梨になったに違いない。