器にこめたストーリー
陶芸家 美崎光邦さんの工房を訪ねると、ずらりと作品が並べられていた。
「これ、素材は何なんですか? 陶器と磁器が混ざってるような……」
「そのとおり、よくおわかりになりましたね。混ざってるんですよ」
この日、美崎さんは、ご自分の作品を最初に焼いたものから、年代順に並べてくれていたのだ。
「私はいろいろなところで学んできたので、とりあえずは何でもできます。だけど、何をやっていいのかわからなかったんですね」
作家として独り立ちするときには、「自分は何をやりたいんだろう」という疑問が常にあったという。
「だから、磁器とかいろいろやった。バブル全盛のときは、見ただけで割れてしまうような質感のものを作りたかった。世の中がピリピリしてたから、心をシンと静めるようなものをね」
「そこから、今のような風合いの器に移ったのはなぜですか?」
「30代に作っていたのは、例えるなら、アニメのひとコマを作っているような感じ。緊張感はあるけど、ストーリーがない。でもやっぱりアニメにはストーリーがないといけないと思うのね。それで手びねりで作品を作るようになったんですよ」
そう話す美崎さんの作品には、美しさだけでなく、ゆったりとした風合いがあり温かさが感じられる。
情熱を持って作品と向き合う
「今まで数々の賞を受賞してきましたが、これからはどんなものを作っていきたいですか?」
と中田が質問すると、
「ちょっと寂しい話なんだけどね」と美崎さんは話し出した。
「年を取るとね、スケール感がなくなっていくんですよ。だから、公募展なんかのときには、あえてスケールの大きいものを作りたいって思ってるんですよ。そうしないと忘れちゃうから」
続けてこうも言う。
「あとね、ちょっと作品を作って、お祭りとかで売るっていうのもいいなって。昔は仲間がいて、そいつは“小説を書くぞ”って言ってたの。それを俺が買って読むから、俺の作品を買ってくれよなって。結局、そうはならなかったんだけど、いま思うと、そういうのってすごくいいなって思うんですよね」
何を表現するのか。これまでの旅でも多くの作家に訊ねてきたことだ。
美崎さんは若いころのエネルギーと情熱を、今でも忘れていない。