秋田藩で生まれた工芸「金銀銅杢目金」
「金銀銅杢目金(きんぎんどうもくめがね)」。読んで字のごとく、金、銀、銅や赤銅といった金属を重ね、彫りを入れたり叩いて鍛えるなどして、木目のような表現をつけた芸術作品だ。
もともとは秋田藩の三代藩主である佐竹義処のお抱え金工師であった正阿弥伝兵衛が考案したとされる技術。刀のつばや柄に好んで使われた。
金属を接着する際に、1100度前後の高熱でそれぞれの金属を熱する。とくに金と銀はそれぞれ融点が違うので、かなりの技術が必要とされる。そのため金銀を使用する作品は長く途絶えていたが、今回お話をさせていただいた林美光さんが40年という長年の研究の末、復活させた。
60年の「金銀銅杢目金」作品作り
今回取材をオファーさせていただいたきっかけは、工芸展で実際にその作品を見て魅了されたことだった。実際にその作品を目の前にする。金属とは思えない美しい木目がそこにはある。「持ってみて」と林さんに促されて手にとってみると、ずっしりと重い。この繊細な模様が金属で作られていると思うと、不思議な美しさが浮き立ってくるようだ。
林さんは10代のころからずっと作品を作り続けてきた。材料となる金属はそのときどきで違った。最初は鉄ではじめ、戦後になるとステンレスが主流になった。ちなみにステンレスでの作品は現在でも作り続けているそうだ。
「猛勉強しましたよ。とにかくめちゃくちゃに作り続けた。それで色々なものがわかってきました」と林さんは話す。金や銀など金属同士のバランス、重ねる順番、そういったものをすべて作りながら見つけてきたのだそうだ。
東大寺に香炉を献納する
この工芸作品では金属を使う。金や銀といったものも使うので、材料費がものすごく高くなることがある。だから、作業も慎重にならざるを得ない。だけれども林さんは「もちろん、技術がよくないといけない。でも、度胸も必要なんです」とも言う。
「作っていないと落ち着いていられないんですよ。作っていないと気がすまない」
そんな風に語る林さんは、77歳を迎えるがまだまだ現役で活躍している。2014年の夏には、奈良東大寺に金銀銅杢目金の香炉を献納する予定。(取材時)
「これまでの集大成」と林さんが位置づける「華厳」という作品はその技法とともに文字通り「宝」として日本に残ることになる。