サラリーマンから陶芸の世界へ
岩手県の野田村というところで作陶を続ける作家・泉田之也さん。そのギャラリーを訪れた。ギャラリーには革張りのソファーが置かれ、ジャズが流れていておしゃれなカフェにきたのではないかと錯覚してしまうようなスペースだ。飾ってある作品もシャープなフォルムが印象的な、現代的デザインの陶器ばかりだ。
泉田さんはもともとはサラリーマン。「でも、ものを作るのが好きで、サラリーマンをやっていても『面白くないな』という気持ちがあったんです。それで好きなことをやっちゃおうとこの世界に入ったんです」。そう笑いながら話をしてくれた。
別名すり鉢作家
そうしてサラリーマン生活をあとにして、小久慈焼の窯元であった下嶽岳芳氏に弟子入り。25歳から3年の間修行をして、その後は独立して製作に励んだ。
ギャラリーの片隅には目を引くすり鉢がたくさん積んであった。すり鉢というとあまりに実用的で見た目をあまり気にしたことはないが、泉田さんの作るすり鉢はすっきりとそのまま食卓においても違和感のないスタイル。それが人気となり作っても作っても追いつかないぐらいに注文が来るのだそうだ。「それで別名すり鉢作家と呼ばれることもあるんですよ」と笑いながら教えてくれた。
陶芸作品としての泉田さんの作るものの多くはオブジェ。特徴は割れそうなほどに繊細なフォルム。うわ薬などはあまり使わないので、土そのもの強度しかないそうで、出展の際に割れてしまったこともあったそうだ。ちなみに2005年にニューヨークでの展示に出品したときは、輸送費に100万円位もかかったという。
陶芸で繊細なフォルムは何度も作り直す
その繊細なフォルムを生み出すのは「手」だという。頭で考えるよりも手を動かして実際に形を作りながら作品が生まれてくるのだそう。最初は使用済みのはがきなどを折ったり曲げたりして面白い形のものを作る。それを形の基準にして、徐々に大きなものを作っていくのだという。そうやってできた型をもとに土を乗せ、焼きを入れ、陶芸作品としての表情ができていくのだ。
中田も泉田さんの型を使わせてもらいオブジェ作りに挑戦。型と粘土の間にあえて目の粗い和紙をひき、表情を出すテクニックなどを教わった。
ギャラリーの片隅につみ上がった伝統のすり鉢。それと現代的なセンスで作られた陶器のオブジェ。小久慈焼という伝統がつないだ土の感覚がある。さらに今後どんな表情の作品が生まれるか楽しみだ。